今回私が参加・発表したWPTC2020は、IEEE Microwave Theory and Techniques Society (MTT-S) が主催する、ワイヤレス電力伝送(Wireless Power Transfer : WPT)に関する国際会議である。別団体であるIEEE Power Electronics Society (PELS) が主催し、同じくWPTを扱う国際会議 WoW2020と同時開催され、二つの会議を合わせてWPW2020 (Wireless Power Week 2020) というイベントの名前が付けられている。参加者は二つの会議の好きな方に出入りしながら、興味のある発表を聴くことができる。この会議は韓国・ソウルで開催される予定だったが、新型コロナウイルス感染症の世界的大流行を受けオンライン開催となった。
オンライン会議ツールである「Infovaya」の
私の論文に関する画面
WPW2020では、論文の情報や発表動画にアクセスできる「Infovaya」というプラットフォームが用いられた。通常のオフラインでの会議と同じく時間帯が指定されており、オンライン会議ツールであるZoomを用いたリアルタイムの議論も行えるが、このInfovayaを用いることで見返したい発表の動画を後からいつでも視聴することができ、チャットを使った議論もできる。これはオンラインならではの良さであると言える。
WPTはモバイル機器や産業機械、交通インフラなど様々な応用が考えられており、今回の会議でも世界中の大学・企業から多様な発表が行われていた。来年はアメリカのサンディエゴ(カリフォルニア州)で開催される予定であり、オフラインで開催されればより議論が盛り上がることが期待される。
私は、走行中の電気自動車(EV)に取り付けた受電コイルに、路面に設置した送電コイルから無線で電力を供給する「走行中ワイヤレス給電」に関する研究を行っている。走行中ワイヤレス給電が実用化されると、電気自動車の短い航続距離・長い充電時間という問題を根本的に解決できるため、環境負荷が小さいEVの普及をより進められると期待されている。しかし、自動車が一つのコイルの上にいる時間は非常に短く、その間でうまく給電するには送電開始時にコイルに流れる電流である「過渡電流」をうまく制御する必要がある。そこで私は過渡電流のモデルを回路方程式から導出し、モデルに基づいた制御を行う研究を行っている。特に今回WPTC2020で発表した論文では、実際にコイルを動かしながら給電する実験を行い、自分の提案手法が有効であることを実証した。
発表では今回の論文で用いた、屋内で自動車の走行を模擬できる「走行中給電ベンチ」という実験機の動画を流し、提案手法とその結果について説明した。走行中ワイヤレス給電の研究は世界中で行われているが、実験機の製作が困難なこともあり、実際にコイルを動かしながら給電する実験を行っている研究はあまり多くない。そのため質疑応答では主に、実際にコイルを動かした実験をするにあたり難しい点についての議論を行った。
WPW2020は、私が初めて参加するオンラインの会議であった。以前に参加したオフラインの会議と異なり、現地で知り合った海外の研究者と気軽に研究について話すのはどうしても難しかった。
その一方で、オンラインになったことによる利点もあった。上述したように、見返したい発表の動画を後から視聴したり、チャットを使った議論をしたりできるのはとても良かった。聴いていてよくわからなかった部分を見返せたり、質問内容を文章で整理してから質問したりすることができるので、語学力の面で発表が理解できなくなってしまうという問題を解消できた。
オフラインの会議だと、発表中は当然静かに聴いていなければならないので、一度わからなくなると発表内容についていけなくなってしまうということが多々あった。しかしオンラインであったことにより、私の研究室で同じ会議に参加した他の学生と話しながら発表を聴くことができた。そのため、発表中でも小さな疑問はお互いで解消することができ、より多くの発表を理解することができた。これはオンライン化による思わぬメリットであった。
今回の会議では光栄なことに、私の発表をBest Student Paper Award の一つに選んでいただいた。国際会議で受賞するのは初めてで、大変嬉しかった。これを励みに、今後も研究に邁進したいと思う。
表彰式もZoomで行われ、
表彰状も電子ファイルで公開された