Graphene weekはEUが出資する研究プロジェクトGraphene flagshipが毎年主催するグラフェンについての国際会議である。なおグラフェンとは炭素原子のハニカム格子からなる単原子厚さのシートであり、高いキャリア移動度を示すため次世代の半導体材料として盛んに研究されている物質である。フィンランドのヘルシンキで行われたGraphene week 2019に参加した研究者は約700人、発表件数は約300件であった。
会場の様子
会議は5日間にわたって開催され、午前に基調講演、午後に一般講演、夜にポスター講演があった。基調講演では2010年にノーベル賞を受賞したAndre Geim博士を始めとして、世界中の著名な研究者によって最新の成果が報告された。その他の講演においても、従来の理論限界を超えるキャリア移動度を示す新規グラフェンデバイスなど、未だ出版されていない最先端の画期的成果が多数報告された。また、応用を意識した多数見受けられ、グラフェンが製品として実用化される時が近づいているのを感じられた。
今回は“Band modification of graphene by periodic potential of Au (100) reconstructed surface”という題目でポスター発表を行った。グラフェンは波長に依存しない光物性を示すが、グラフェンを光電子デバイスに応用するためにはグラフェンの光物性には波長選択性があることが望ましい。本研究ではグラフェンへの周期ポテンシャルの印加による光物性の変調を狙いとして、Au(100)表面が再構成して形成される1.44nmと比較的短い周期を持つHex-Au(100)構造上にグラフェンを形成し、角度分解光電子分光法による電子状態の評価と熱放射光学顕微鏡による放射率の評価を行った。
グラフェンの角度分解光電子分光法の結果、平滑なAu(100)基板上に形成したグラフェンとの比較により、Hex-Au(100)による畝構造上に形成したグラフェンはフェルミエネルギーから0.85eVにエネルギーギャップを持つことがわかった。また、平滑なAu(100)基板上に形成したグラフェンに比べて、Hex-Au(100)構造の畝構造上に形成したグラフェンは熱放射光の強度が減少していた。これは当該のエネルギー帯においてグラフェンの放射率が低下したことを示している。以上の結果は、Hex-Au(100)構造の持つ周期ポテンシャルによってグラフェンの光物性を波長選択的に変調できたことを示している。
当日はCu基板上に作製される通常のグラフェンと比較してAu基板上にグラフェンを作製する際の条件や物性の違いについての議論が中心となった。また、Auという不活性な金属を用いてグラフェンの物性を変調できることはインパクトのある成果として受け止められたと思われる。
会場から夕暮れのバルト海を臨む
今回のGraphene Weekでは学会会場がヘルシンキの中心からやや離れていたため、多くの研究者が昼食を学会会場で取っていた。そのため、初対面の海外の研究者と昼食を取りながら有意義なコミュニケーションができた。また、「基板の周期構造を用いてグラフェンの電子物性を変調する」という研究内容が非常に強く関連しているフランスの研究者の方とは深い議論ができたと考えている。その他に、私の論文を引用した発表があったことは自分のこれまでの研究に意味があったと感じられ密かに喜びを感じた。
学会におけるコミュニケーションには大きな支障は感じなかったが、ヘルシンキ市内で夕食を取る際など専門分野を離れた会話に苦労することもあり、英語力の継続的な向上を目指しトレーニングを続ける必要性を痛感した。
最後に、渡航費用に支援をいただいた丸文財団様に厚く御礼を申し上げます。