14th International Symposium on Macrocyclic and Supramolecular Chemistry (ISMSC2019) は、ホスト-ゲスト化学の代表である大環状化合物をはじめとする、超分子化学の発展に向けた討論を目的に開催される国際シンポジウムです。超分子化学分野において、最も大きな学会といっても過言ではないため、毎年数多くの研究者が参加します。ホスト-ゲスト化学は、1967年にC. J. Pedersenによって成し遂げられた王冠型の奇特な性質を示す分子(=クラウンエーテル)の発見を皮切りに幕を開けた分野です。現在までに本学問は2度のノーベル化学賞を受賞するなど、極めて注目度の高い研究領域であるといえます。
ISMSC2019は南イタリアに位置する、美しい歴史で溢れたレッチェで開催されました。超分子化学分野の礎を築いてきた研究者から、博士号取得前後の若手研究者にわたる多くの参加者が世界中よりレッチェに集まり、活発な議論が行われました。注目するべきは、2016年に「分子マシンの設計と合成への貢献」でノーベル化学賞を受賞したB. L. Feringa博士とJ. F. Stoddart博士が基調講演を行ったことです。最先端の研究に触れた他、自身の視野を日本のみならず世界へ拡張する良い機会となりました。
レッチェの町並みの様子
学会の様子
分子鎖内に非局在化したπ電子の広がりに由来する奇特な諸性質を呈する高分子を化学センサに適用する場合、高分子鎖のワイヤー形状に基づき、分子認識に伴う電子的摂動がそのπ共役を通じて分子全体に広がります。その結果、単分子では成し得ないシグナルの増幅が生じ、高感度なセンシングの達成が期待されます。本研究では、高分子材料を用いた化学センサを開発し、その一例として、グリホサートの検出を行いました。
ポスター発表の様子
グリホサートは過剰使用による環境被害により、近年欧米の一部の州で使用規制がされている除草剤です。他方、当該物質は2015年に国際がん研究機関により、グループ2A(ヒトに対する発ガン性を有する疑い有)に分類されたことから、世界中の多くの報道機関や新聞記事に取り上げられるなど、社会的に注目されています。
グリホサートを検出する具体的アプローチとして、光学応答および導電性を示すポリチオフェン誘導体をセンサ材料として採用しました。π共役性高分子の特徴を最大限に生かすため、同一の高分子を用いて蛍光センサおよび電子デバイス型のセンサを作製し、グリホサートに対する両者のセンシング能の比較・検討を行いました。当日のポスター発表では、とりわけヨーロッパにおいてグリホサートの規制に関して認知度が高いため、さらに開催国がイタリアという理由も相まって、開催国周辺の国々の参加者からとても興味を持っていただき、活発な意見交換をさせていただきました。
ISMSCは昨年度(開催地:ケベック)初めて参加・講演をさせていただき、そのレベルの高さに大変感銘を受けたことから、今年度も参加を希望しました。学会中は、著名な先生方の講演を目の当たりにし、とてもワクワクしながら拝聴させていただきました。トップレベルの研究を肌で感じるだけでなく、世界中の研究者の方々と交流する機会があるのも、国際会議の醍醐味だと思います。バンケットではオーストラリアの先生が声をかけてくださり、研究以外にも互いの国の文化について語るなど、充実した時間を過ごすことができました。ヨーロッパは自身にとって初の渡航地でしたので、アジアとは一味違った風景や文化を感じることができ、良い経験となりました。
本国際会議への参加に際しまして、一般財団法人丸文財団から多大なるご支援を賜りました。この場を借りて心より感謝申し上げます。