Figure 1: SECセンター
Institute of Electrical and Electronics Engineers (IEEE) に属するUltrasonics, Ferroelectrics, and Frequency Control Society (UFFC) が中心となり開催するIEEE International Ultrasonics Symposium (IUS) は、毎年秋に開催される超音波工学分野において世界最大規模の国際シンポジウムである。本年度は10月6日から9日にかけてスコットランドのSECセンターで開催された。会議には延べ1,500人もの専門家が一堂に会し、1,000件以上の演題が40を超える数のセッションに分かれ、活発な議論が行われた。特に医用超音波分野のセッション数は、近年、全セッション数に対して占める割合が増加しており、精力的に研究が行なわれている分野として認識されている。また、超音波工学の各分野における現状や今後の展望について紹介する講義や若手研究者のキャリア開発やネットワーク形成を目的としたワークショップも開催された。
リンパ管の可視化技術の創出は、センチネルリンパ節同定技術の支援やリンパ浮腫における機能評価など診断と治療の両側面において重要である。臨床現場におけるリンパ管のイメージング方法として、インドシアニングリーン(ICG)を用いた近赤外蛍光造影法が注目されているが、1 cm以上の深部に存在する脈管を可視化しにくいという欠点を有する。超音波造影剤であるマイクロバブルを利用した造影超音波法も期待されている方法の一つではあるが、状況によってはコントラストが悪化するというデメリットがある。そこで我々の研究グループでは、音響放射力によって生じる超音波造影剤の動態をドプラ法で検出しイメージングに利用する方法を提案している。ほぼ静止している造影剤に超音波を照射しアクティブに移動させることで、静止流体で満たされているリンパ管であっても可視化が可能となる。
当該会議では造影超音波のセッションにて、“ Visualization of a simulated lymph channel using contrast enhanced active Doppler ultrasonography method ”という題目でポスタ発表を行った。内容は、上記の提案法を用いて模擬リンパ管をイメージングした結果を基に、提案法の有用性、将来的な技術課題について説明した。造影超音波の分野では微小脈管系の超解像イメージングがホットトピックとなっており、今回のシンポジウムにも関連する研究者が数多く参加していた。世界を代表する専門家たちに自身の研究内容を認知してもらい、さらには研究の方向性を左右するような助言もいただくことができ、非常に有意義な時間であった。一方で、研究発表の質疑応答を通じて技術レベルが高い内容について英語でディスカッションすることの難しさを痛感した。今後グローバルに活躍するために引き続き英語力を向上させる取り組みが必須であると考えている。
IEEE IUSへは初めての参加であったが、大規模な会議である故、最新の研究動向を把握することができ、世界の研究レベルの高さを認識することができた貴重な機会となった。また、グラスゴー中心地で開催されたバンケットでは現地の文化にも触れることで、学術面以外にも貴重な経験を積むことができた。
Figure 2: ポスタ前にて
Figure 3: バンケット会場内の様子
今回のインターンシップで訪問したImperial College London(ICL)はロンドンに本拠地を置く、工学、医学などに特化した世界有数の公立研究大学であり、ノーベル賞受賞者を数多く輩出している。バイオエンジニアリングという学問分野を確立したことでも知られている。本渡航でご指導いただいたMengxing Tang教授が運営するUltrasound Laboratory Imaging and Sensing(ULIS)は平面波を用いた高速撮像イメージングや造影超音波法の応用とされている超解像イメージングによる血流動態解析において最先端技術を有する研究室の一つとして認知されている。
先述のIEEE IUS 2019で発表した動的造影超音波法の検討において、現在は単一凹面振動子を用いた簡易的な実験系を用いて基礎的検討を行なっているが、実用へ向けて複数の素子が配列されたアレイプローブを用いた検討への移行を検討している。アレイプローブを用いる利点は超音波ビームのビーム形状を制御することが可能である点にある。従来の集束超音波ビームを走査させる手法を用いて動的造影超音波法を行なうと、フレームレートが極度に低下するが、アレイプローブにより実現される平面波送信と受信並列ビームフォーミングを用いた高フレームレートイメージングを動的造影超音波に適用することで臨床応用可能なリアルタイム性が実現できる。ULISは平面波シーケンスを用いた高速イメージングにおいて世界トップレベルの環境および技術を有しており、これらを学ぶには最適な研究施設である。そこで、IUS終了後に当該研究室にて平面波イメージングにおける信号処理のノウハウを学ぶことを目標に、平面はイメージングにおける基礎的な問題の解決に取り組んだ。
現在、平面波イメージングは基礎研究レベルで広く注目されているものの、民生超音波診断装置には実装されることは少ないため、これらの検討は研究用のプログラマブルな超音波スキャナとアレイプローブを用いて行われていることが多い。さらに平面波イメージングは民生超音波診断装置の一般的な送信シーケンスである集束超音波ビームを走査する手法に比して分解能など画質の劣化が課題となっている。分解能の低下およびノイズやスペックルの増加はドプラ解析および造影剤の存在箇所を推定するローカライゼーション法の精度低下につながるため、これらを改善する必要がある。そこで、本インターンシップでは、超音波像の空間分解能向上を目的として開口合成時に加算する位相の分散性を考慮したコヒーレンスイメージングを実装し、評価法の検討を行った。腫瘍をインプラントしたマウスモデルの数千フレームのデータを対象にし、提案法を適用したところ、従来イメージングにおいて体表面に存在していたアーチファクトが減少し、腫瘍内部に存在していたスペックルの減少に成功した。
Figure 4: Tang教授(右)らとの写真
本インターンシップでは海外の著名研究室に滞在し、世界有数の大学に所属する学生たちと研究に対するディスカッションおよび日常のコミュニケーションを英語で行ったことで、世界で求められるレベルの高さを実感することができた。特にミーティングでは、他機関の研究者を招いて勉強会を行うこともあり、活発なディスカッションに参加することで、課題解決に向けたアプローチ方法を学ぶことができた。研究に対してTang教授やULISメンバとの英語でのディスカッションに非常に苦労したことから、英語力の向上は必要不可欠であるということも痛感した。1ヶ月を超える長期滞在が初めての経験であり、文化の違いに戸惑うことも多くあったが、わからないことをわからないままにせず自ら動くことで吸収しようと心掛けた結果、ULISで今後も継続していくプロジェクトと期待されるまでの成果を出すことができた。また、アートギャラリーなど芸術に触れる機会も多く、ハロウィンで近所の子供たちとコミュニケーションを取るなど、研究以外の面においても滞在を通じて多様な価値観を身につけることができた。
IEEE IUS 2019およびICLでのインターンシップを通じて、今後医工学分野で技術開発を続けるにあたり大変大きな刺激を受けた。英語でのプレゼンテーション、海外の若手研究者との交流、研究以外での社会経験など渡航において体験した全てのことが非常に有意義な時間であったと感じている。博士前期課程を修了後には医療機器メーカーで研究開発職としての勤務が決定しており、本渡航で形成したネットワークを活かし、世界で活躍できる人材となれるよう一層精進していく所存である。今回の渡航に多大なるご支援をいただきました一般財団法人丸文財団に厚く御礼申し上げます。