国際交流助成受領者/国際会議参加レポート

令和元年度 国際交流助成受領者による国際会議参加レポート

受領・参加者名
大西 章也
(千葉大学 フロンティア医工学センター)
会議名
The 41st Annual International Conference of the IEEE Engineering in Medicine and Biology Society (EMBC2019)
期日
2019年7月23日~27日
開催地
CityCube Berlin, Messedamm 26, 14055 Berlin, Germany

1. 国際会議の概要

会場

The 41st Annual International Conference of the IEEE Engineering in Medicine and Biology Society (EMBC2019) は米国電気学会(IEEE)が主催する医工学分野最大級の国際会議です。本年度は3,445件の投稿があり、2,278件がフルペーパー論文として採択されました。

EMBC2019では脳波や筋電などの生体信号を用いたリハビリテーション技術や、生体信号処理技術、光学技術など幅広い分野の最先端の研究成果が発表されました。特に、脳波を装置の制御命令に変換するインタフェース、すなわちブレイン-コンピュータ・インタフェース(BCI)は主要なトピックの一つであり、例年と同様に、本年度も5つのオーラルセッションがありました。

2. 研究テーマと討論内容

BCIは脳波を計測し、信号処理や機械学習を施して装置の制御命令に変換するインタフェースです。BCIを用いると手足を使わずとも装置を制御することや、意思を伝達することを可能とするため、閉じ込め症候群のような身体が不自由な方の生活の質の向上に役立てることができます。BCIの主要な方式の一つにP300-based BCIがあります。このBCIを操作するには、装置制御命令に対応する刺激が出現したときに心の中で出現回数を数える課題を行います。課題時に大きな振幅を持つ脳波成分P300などが生じるため、それを手掛かりに意思を読み取るのがP300-based BCIです。BCIは一般に、どのような脳波がどの刺激により生じるかといったラベルがつけられたデータを用いた学習、すなわち教師あり機械学習を用います。しかしながら、脳波の識別はその信号の微弱さから容易ではなく、10分~20分程度の訓練データを計測する必要があり、操作するまでに時間がかかっていました。

この問題を解決するため、大西らは事前に計測した他の被験者の脳波データを用いて識別器を学習する手法である転移学習に着眼しました。この方法を用いると識別問題が難しくなりますが、BCIを使用する前に訓練データを計測する必要がなくなるため、より簡便にBCIを使用できるようになります。前述の情動音を用いたP300-based BCIのため転移学習に用いるために最適な識別器はどれであるかを比較しました。今日、機械学習でよく使われる識別器であるサポートベクトルマシン(SVM)や線形判別分析器、二次判別分析器、ランダムフォレストなどの主要な識別器を用いて評価しました。

その結果、SVMを用いた場合に最良となり、平均で68.7%、最大で86%の識別精度が得られました。本結果からBCIの転移学習に最適な識別器はSVMであることが明らかとなり、特徴抽出法などを改善すれば今後の性能向上が期待できます。

3. 国際会議に出席した成果
(コミュニケーション・国際交流・感想)

本国際会議を通じてBCIの新しい動向を知ることができました。例えば、ヘッドマウントディスプレイにて呈示する仮想現実を用いたBCIついて多数の発表がありました。また、BCIはこれまで重度の運動機能障害がある人の代替運動出力経路としての研究が主流でしたが、認知機能の診断などについても盛んに発表されるようになりました。さらに近年、OpenBCIやEmotivなど、小型で安価な脳波計が次々と発売されており、g.tec社もUnicornという新しい脳波計を発売するなど、新しい脳波計に関する情報を得ることができました。その他、3Dプリンタを用いた把持機構や、ロボットを用いて作業療法士と患者のリハビリを円滑にする方法などが提案されました。

国際会議参加を通じて、国内外の医工学関係の研究者と交流することができました。加えて、英語での口頭発表や、座長の代理を務めるなど、新たな経験を積むことができました。最後に、本学会への参加にあたり、貴財団より多大なるご支援を賜りましたことを心より感謝申し上げます。

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