発表会場
International Symposium On Photochromismは、3年に1度開催される国際会議である。題材としてはフォトクロミズムと呼ばれる光照射に伴い、状態が変化し、光の吸収波長が変化する(変色する)現象に関するものである。本現象に関する材料開発、反応メカニズムの解明など幅広い講演が行われた。今回は第9回目の会議であり、フランス、パリ市内にあるパスツール研究所で開催された。総勢240名程度の参加者があり、フランス国内の参加が多かったが、その次には日本からの参加が多く、本研究分野に対しての日本人の貢献度の高さが伺える。本国際会議は一つの大会場で行われ、4件のKeynote Lecture、15件のInvited Presentation、85件のOral Presentationおよび96件のPoster Presentationが行われた。本会議終了後には、私の所属研究室も参画している日仏の国際共同ラボ事業 (French-Japanese International Associate Laboratory “Nanosynergetics”) のサテライトワークショップが開催された。次回のISOPは3年後に日本の奈良で開催される予定である。
口頭発表風景
フォトクロミズムの初期過程の1つである6π電子環状反応はWoodward-Hoffmann則に支配される代表的な化学反応として知られている。その反応のメカニズムの解明を目指し、著者の所属研究室を含め、理論・実験化学者が今までに多くの研究結果を報告しているが、完全な反応メカニズムの解明には至っていない。今回、我々は反応メカニズムの解明に向けて新たな知見を得るために、独自の分子設計を行ったフォトクロミック分子を利用し、意図的に新しい6π電子環状反応の反応経路を発現させることに成功した。さらに、具体的な反応経路の特定およびその反応性の発現に至った理由を明らかにした。その結果について “Specific electrocyclic reaction dynamics of a dithiazolylarylene derivative” というタイトルでポスター発表およびその後のサテライトワークショップにおいて口頭発表を行った。発表においては学生だけでなく、多くの先生に討論いただいた。そのような反応性を示す理由についての質問が多く寄せられたが、具体的な根拠を示し、質疑応答をしていくうちに納得してくださり、発表内容自体は大変好評であった。
今回の会議では、見ず知らずの外国人に対してバンケットやポスター発表において積極的にコミュニケーションをとったことはもちろんであるが、私が過去に滞在経験のあるフランスの研究室の先生や学生、あるいは当研究室に滞在経験のあるフランスの学生など以前から交流のあった外国人と交流する機会が多くあった。その中で、自身の研究内容、滞在時のこと、近況など話すことができたため、今後の研究発展だけでなく、国際交流という面でも非常に有益な会議であったように思う。
また、本会議に参加したことで、自身の研究分野が国際的にも盛んであることを認識できたとともに1度の滞在でポスター発表と口頭発表の両方を経験し、質疑応答をこなすことができたことは、今後の研究活動につながる貴重な経験となった。
最後に、この度の学会参加にあたり多大なご支援をいただきました一般財団法人丸文財団に厚く御礼申し上げます。