学会会場前での写真
The 8th IFAC Symposium on Mechatronic Systems (IFAC Mechatronics 2019) という国際学会が、2019年9月4日から6日に、オーストリア、ウィーンのウィーン工科大学にて開催された。この学会は、International Federation of Automatic Control (IFAC) が主催する学会の1つであり、3年に1回開催される。IFAC Mechatronics 2019で発表された研究分野としては、機械と電気を組み合わせたメカトロニクス系と分類される機器の設計と、それに合わせた線形制御理論に関するものが主である。原子間力顕微鏡、露光装置、天体望遠鏡、ロボットなどの精密な動作が必要なシステムに対して、機械的な性質を考慮しつついかにして制御するかという研究や、新しい構造のアクチュエータやセンサなどに対して、その性質をどう工夫して有効に活用するかという研究など、高度なシステムとそれに合わせた扱い方に関する論文が多く発表されていた。今回、IFAC Mechatronics 2019は、the 11th IFAC Symposium on Nonlinear Control Systems (IFAC NOLCOS 2019) と共催で行われた。IFAC NOLCOS 2019で発表された研究分野としては、非線形制御理論に関するものが主であり、IFAC Mechatronics 2019で扱われる線形制御理論の内容と合わせて、制御分野の幅広い研究内容をカバーしている。2つの学会合計で、3日間で合わせて268件の論文が発表された。世界中の一流の大学の研究者の発表はもちろんのこと、実際に製造機械などを設計・製造している企業の研究者の発表もあり、メカトロニクス分野の学問分野としての活発さや、産学連携の重要性を感じることができた。
申請者は "Intersample Behavior Analysis of MIMO Multirate Feedforward Control depending on Selection of Input Multiplicities" という題目で発表を行った。この研究は、製造装置内で用いられる精密位置決めステージやロボットアーム、ハードディスクドライブのヘッドなどの制御といった、多くの工業製造や工業製品の位置決め制御に用いられる制御手法である、マルチレートフィードフォワード制御に関する研究である。一般に、製造装置などにおける制御装置ではディジタル制御により離散的な入出力を用いるため、従来は、主にそのサンプリング点上の振る舞いに関心があった。本研究では、実際の製品等の質に直結する、連続時間での誤差の低減を目指すために、どういった制御器設計が適切なのかということに着目した。近年、より複雑な動作やより高品質な加工を実現するために、製造装置などにおける位置決め系が複雑化しているという現状がある。こういった、複雑化する製造装置を多入力多出力系として制御する際に、各制御入力のサンプリング周期の選び方に自由度があることに言及した。その中で、制御入力の大きさを評価することで、制御対象の特性に最も適した制御器設計方法の理論を示した。また、実際の実験機を想定したシミュレーションによるケーススタディで、連続時間の誤差を評価することで、提案した制御手法の有効性を検証した。本発表自体は、理論的な側面に関する内容が多かったが、発表後には、多段のアクチュエータや、多軸のステージなど、提案した制御手法が多くの対象に適用可能であることや、その優位性について、各国の大学の研究者の方々や産業界の方々よりコメントやアドバイスをいただき、議論を深めることができた。
学会での発表中の写真
会議では、3日間、8つの部屋で並行して、活発な発表、および、それに関するディスカッションが行われた。申請者は、1日目の "Precision Scanning Systems in Metrology and Manufacturing I" のセッションで発表を行った。発表では、20名以上の研究者の方々に発表を聞いていただくことができ、発表後の議論からも、今後の研究に繋がるような示唆を得ることができた。また、発表のセッション間の休憩時間には、多くの研究者がコーヒー片手に活発に議論する姿が見られ、各国の研究者が国際学会として集まり議論する意義を感じ取ることができた。日本からこの学会に参加している研究者の方々はもちろんのこと、この学会の運営にも関わっている、原子間力顕微鏡や天体望遠鏡の精密制御分野で有名なオーストリアのウィーン工科大学の研究者の方々や、半導体製造装置や印刷機械の制御で有名なオランダのアイントホーフェン工科大学の研究者の方々など、多くの海外の研究者の方々とも、深い議論を交わすことができ、1人の研究者として世界中の最先端の研究者の方々と関係を築いていく一助とすることができた。以上のように、今回の国際会議参加は申請者にとって非常に有意義な機会となった。御支援いただいた一般財団法人丸文財団に対し、厚く御礼申し上げる。