バルセロナの街並み
International Conference of Magnetism and Magnetic Materials (ICMMM)は磁性体・磁性材料についての国際学会であり、2007年から通算で750件もの発表件数を誇る。2019年のICMMMはスペインのバルセロナで開催された。
今回のChair・司会進行はSultan Qaboos Univ.: OmanのU. S. Al-Kindi氏と当助成金の受領者である私によって行われた。学会中は新規磁性材料についての発表を中心に、発表および討論が行われた。
本会議では、”Modification of Magneto-Transport Properties of Ferrimagnetic Mn4N Thin Films by Ni Substitution and Their Magnetic Compensation”という題目で発表を行った。
電流による磁性体中の磁壁移動を利用したメモリは、待機時に電力を消費しないため、情報化・省エネルギー社会の発展のために注目されている。中でも、フェリ磁性体において角運動量の総和がゼロになる補償点では磁壁移動の効率が最大となるため、こうしたメモリへの応用が期待されている。しかし、補償点を有する材料は一般にレアアースを含んでおり、大幅な普及には適さないことが予想されている。
発表時の様子
私たちのグループはレアアースフリーなフェリ磁性材料としてMn4N, (Mn, Ni)N薄膜に注目しており、Mn4N薄膜では既に実験で900m/sという高速な磁壁移動速度を達成した。また、Mnの一部をNiに置換することによって磁化補償が起こることが示唆されており、その近傍にあると予想される角運動量補償点を用いることで、更なる高効率化が期待される。
発表では、これらの新規材料の特性を紹介、および異常ホール効果測定などの各種測定から(Mn, Ni)Nの補償について解説した。
(Mn, Ni)N薄膜について、国際学会の場でオーラルの研究発表を行ったのは今回が初めてであった。そのためか、他の参加者と質疑応答・意見交換を行うことができた。これらは研究の競争に収まらず、まだこれから研究すべき点の多い新規材料についての今後の展望が得られる、有意義なものとなった。
また、会議中のコーヒーブレーク中には、様々な国の若手研究者と共に飲み物と軽食をとりながら、お互いの研究内容、研究生活の様子について語らうことができた。その中で、これまで自分が当たり前だと思っていた習慣や考え方が、世界ではそうとは限らないということを痛感した。視野の広い研究者になれるように、今回の経験を忘れないようにしていきたい。
更に、本会議ではBest Presentation Awardを受賞するという成果を挙げる結果となった。
本国際会議への参加・発表および交流活動は、一般財団法人丸文財団からのご支援のおかげであり、この場を借りて心より感謝申し上げます。