学会場の入り口にて
TERMIS European Chapter Meeting 2019は2019年5月27日から31日までギリシャのロードスという島で行われた再生医療に関する国際学会である。再生医療の分野で世界的に最も著名な協会であるTERMISのヨーロッパ支部で主幹した今回の学会は再生医工学の概念を臨床実験や産業化に向けることを主題として様々なプログラムが行われた。特に、組織工学や再生医療のツール・技術・そして新たな発見に関するシンポジウムや臨床試験、新しい医療機器の規制による承認、ラボから商品化に向けたスケールアップ、若い研究者のキャリア開発などに関するワークショップがプログラムに含まれた。そのため、組織工学および再生医療治療に興味を持っているヨーロッパ以外にも世界各国から研究者や企業の方々が集まり、7つの発表会場以外にも企業の出展ブースまで学会場の様々な所でコミュニケーションを取ることができる。
“微細溝を有する培養基板におけるラット前駆細胞の破骨細胞分化”というタイトルで口頭発表を行った。組織工学の中でも細胞運命の制御 (Controlling cell fate) という幹細胞を特定の組織細胞へ分化を誘導する技術についての研究を集まったセッションで発表を行った。本発表は再生医工学の観点で生体外で細胞培養を行う際、接着表面の地形的要素を用いて古い骨を壊して新しい骨組織を形成する骨芽細胞を誘導する破骨細胞の分化を制御するため、微細な溝を有するマイクロパターンを用いて破骨細胞へ分化誘導を行う技術について発表を行った。幅2µm、深さ1µmと固定し、間隔を1,5,10µmのマイクロスケールの溝を有する細胞培養基盤を用いた破骨細胞前駆細胞の分化誘導実験において、間隔が1µmの基盤上で分化が最も促進されたことを示して、マイクロパターンが破骨細胞分化の過程に細胞骨格タンパク質を制御するシグナル経路を介して収縮ストレスを制御しながら表面の微細な地形を認識することができたことが示唆された。本発表は骨組織再生における移植物の表面を変えることで再生を制御することができることや力学的因子による細胞挙動の観察・解明する研究において基礎知識を与えることを期待できる。座長からマイクロパターンによる細胞分化制御に関する研究が多くある中で、破骨細胞を用いた研究は珍しく、他のパターンの形での影響が気になるというコメントをいただいた。
今回の学会は私の初めての国際学会で、再生医療の最先端の研究や技術が集まったことからかなりの期待を持って参加した。Rhodes Palaceというホテルで行われた学会場は非常に広く、午前9時から午後11時までぎっしり埋まったプログラムの内容で学会期間を充実に過ごすことができた。口頭発表だけでも6個もある会議室で同時に行われたため、分厚い学会冊子から興味深い発表を探し、時間に合わせて動線を考えるのは大きい国際学会の楽しみだと思った。
各セッションの1時間半から2時間ごとにあるコーヒーブレイクは世界様々な所から参加した学生や先生との交流ができる非常に有益な時間だった。そして、ホテルのプールを借りて夕食が用意されていて、余裕を持って他の研究者たちとコミュニケーションを取ることができた。特に、物理的刺激を用いた細胞分化制御に関する研究が私の研究室以外にも行われていて、その研究者たちとの議論から新たな観点でこれからの研究を行うことができると思った。
また、今回の学会参加において最も驚いた点は3Dバイオプリンターの企業が多く出展されていたことである。まだまだ先の話だと思ったバイオプリンターを研究・開発する企業が多いことから最近の再生医工学における技術の進歩を見ることができた。
TERMIS-EU 2019 Soiree