The ACM CHI Conference on Human Factors in Computing System (通称 CHI)は人とコンピュータの関わりを研究するヒューマンコンピュータインタラクション分野における世界最大かつ最高峰の国際会議である。今年の本会議は英国、スコットランド、グラスゴーにあるScottish Event Campus Ltdにて開催された。
グラスゴーはクライド川に面する港湾都市であり、スコットランド西部に位置する。18世紀~20世紀にかけて貿易や造船で栄えた都市である。実際に会場付近にはフィニストンクレーンという、造船時に使われた大きなクレーンがあり壮大であった。
参加者数は3,855名であり、65ヶ国から参加者が集まった。
5月4-5日はワークショップ、6-9日は登壇発表、ポスター発表、デモ発表、VideoShowcase発表などが行われた。発表件数は、Paper 703件、LBW(ポスター)342件、Demonstrations 37件であった。昨年と比べ18%の増加であった。登壇発表は発表件数も多いことから複数(今回は22)のセッションが異なる部屋にて並列して行われ、セッション毎にある程度固められたテーマの発表が行われた。ポスター発表は2セッションが2日間、デモ発表は4日間を通じて行われた。
2日目の5月5日にはアジア圏のHCIコミュニティが中心となって昨年より開催されているCHIのワークショップであるAsian CHI Symposiumが会議内の1セッションとして開催され、4件の基調講演および52件のデモ・ポスター発表が行われた。デモ・ポスターの発表件数は、昨年から2倍となった。
CHIはヒューマンコンピュータインタラクション(HCI)分野の国際会議の中でも評価系の研究が多く発表される会議であり、今回の会議においても多くの手法・法則の評価が行われた。次回は、2020年4月25日~30日にハワイのホノルルにて開催される。
研究タイトル (1本目):
Investigation of Midas-touches in Dwell Time Reduction Technique using Fitts' Law for Dwell-Based Target Acquisition
概要:
視線を用いてコンピュータを操作する際に生じる問題の1つである、意図しない操作の発生を防ぐことを目的とした研究である。問題の解決にはフィッツの法則という、HCI分野において広く知られている行動モデルを用いた。本発表の内容は、これまでに私が他の学会にて発表した研究内容の追実験の結果であった。
討論内容:
特に視線に基づく操作に関する研究をされている研究者とは、フィッツの法則が視線に基づく操作には用いることができないという、当該分野におけるまだ解決されていない論点を深く議論できた。
研究タイトル (2本目):
One-handed Rapid Text Selection and Command Execution Method for Smartphones
概要:
スマートフォンにおいて文字入力を行う際に、例えば入力位置を表すカーソルを移動させるためには、該当部分を直接タッチすることが主に用いられている。これを片手で操作する際は、スマートフォンの持ち方を変える必要があり、スマートフォンを落としてしまう原因となってしまう。この解決のために、上記の操作をスマートフォンに表示されたキーボード上にて操作できるようにした。
討論内容:
ポスター発表に伴ってデモンストレーション発表を行ったため、特に実装方法に関する議論が多かった。特に今後の課題としても挙げていた、より操作の幅を広げるためにはどうしたらいいかという議論を行った。
コミュニケーションに関して:
会議全体を通して、国籍を問わず多くの参加者と意見を交換することができた。
本会議における2件の発表は、それぞれ90分という発表時間であったが、その後の時間においても積極的に研究に関する議論を行うことができた。また、実際にデモンストレーションを行うことにより、相手側の理解を促進することができ、より深い議論を行うことができた。他の参加者の口頭発表においては、特に、私の研究内容に近しい研究をしている研究者と議論を行うことができた。
国際交流に関して:
HCI系の研究が盛んである米国の学生のみならず、多くの国の学生とも意見交換を行うことができた。このことから、今回発表した研究の意義を見直すことができ、さらなる研究目的を発見できた。
感想:
CHIは最高峰の国際会議だけあり、参加者数も多く、研究のレベル感としてもとても高く感じた。今後、私もこのような会議において登壇したいと強く感じ、今回の会議参加が今後の研究活動の大きなモチベーションとなった。