会場の外観
Asian Quantum Information Science Conference (AQIS) はその前身であるERATO Quantum Information Science (EQIS) 2001から始まり、毎年開催されている量子情報科学分野の国際会議である。本会議はinvited talks、tutorials、contributed talks、postersで構成されている。今年の件数はinvited talksが10件、tutorialsが2件、contributed talksが52件、postersが130件であった。開催地は韓国のKorean Institute for Advanced Studyであり、8月19日から8月23日の5日間開催された。次回のAQIS2020はオーストラリアのシドニーで開催される予定である。
本国際会議のポスターセッションにて、「Comparison of quantum reading in non-symmetric loss using maximum and non-maximum quasi-Bell states」というタイトルで発表を行った。
ポスター発表の様子
今回の発表内容においては、減衰のみが存在する場合について、擬似ベル状態を使用したときの量子リーディングの性能を比較した。量子リーディングとは、エンタングルメントを持つ2つの光を用いて、ディジタルメモリからの情報の読み取りを行う量子プロトコルである。擬似ベル状態はエンタングルメントを持つ量子状態の一種である。擬似ベル状態には、エンタングルメントが最も大きい状態(最大擬似ベル状態)とそうでない状態(非最大擬似ベル状態)がある。
今までの研究で、最大擬似ベル状態のみを使用して、量子リーディングの誤り率特性を解析してきた。しかし、エンタングルメントを使用する量子プロトコルにおいて、最大擬似ベル状態または非最大擬似ベル状態を使用した際に、どちらが良い性能を示すのかは、プロトコルごとに異なることが先行研究によって知られている。そのため、非最大擬似ベル状態を使用した場合も考える必要があり、今回の研究では、最大擬似ベル状態と非最大擬似ベル状態を使用した場合の量子リーディングの性能比較を行った。結果として、量子リーディングでは、最大擬似ベル状態を使用した方が良い性能を示すことがわかった。本研究により、まだ明らかになっていない擬似ベル状態の性質の一部を明らかにすることができたといえる。
本研究について発表した際、討論していただいた研究者より、NOON状態を使用して量子リーディングの誤り率などを評価してみると良いというアドバイスをいただいた。量子リーディングでは、ディジタルメモリ上の情報により、光の位相が変化する。量子リーディングと同様に、エンタングルメントを使用する量子プロトコルの一つに、光の位相を推定する量子位相推定がある。アドバイスの根拠は、この量子位相推定において、NOON状態と呼ばれる量子状態を使用した場合、従来の推定限界を破ることが示されているためであると理解できる。量子リーディングにおいてNOON状態を使用した場合は考えたことはなかったため、今後調査する予定である。
今回のポスターセッション中、私のポスターの前で立ち止まってくれた人に対して、“May I explain this poster”など、積極的に声をかけるように心がけた。その結果、多くの人に研究成果について説明することができた。去年名古屋で開催されたAQIS2018にも参加しポスター発表を行ったが、こちらからはあまり声をかけなかったため、あまり有意義な時間にはならなかった。しかし、今回は上述の通り、積極的に声をかけることにより、研究に関して多くの人と討論できた。そして、2.の討論内容に書いたように有益なアドバイスもいただき、とても有意義な時間になった。
他の発表を聴講することにより、量子情報科学に関する自分の知識を広げることができた。他の発表には、量子情報科学に関して、私が見聞きしたことのない研究テーマがあったからである。また、他の発表者は質問に対して、自分の考えをしっかりと答えていた。私の場合は、質問に対して答える際、言いたいことをすべて英語にできず、短い返答が多かった。このことから、英語能力をもっと養わなければならないと痛感した。
Nソウルタワーからの景色
今回の出張で、人生で初めて韓国に行き、人や文化、気候などに触れた。そして、T-moneyカードと呼ばれる交通ICカードの便利さや日本で食べる韓国料理との辛さの違いを知ることができた。また、8月下旬のソウルの気候に関しては、日中は少し暑いが日本よりは涼しく、朝や夜は特に涼しかった。また、今回の出張では、実際に現地に行くことの重要性を実感した。なぜならば、実際に現地に行くことで、料理はどの程度辛いのか、気候はどの程度違うのかを体験できたからである。これらは実際に韓国に行ってみなければわからなかったことである。
最後に、本国際会議への参加にあたり、貴財団より多大なるご支援を賜り、心より感謝申し上げます。