開催地リバプールの街並み
(左手後ろのアリーナが発表会場)
EuCheMS Chemistry Congressは、ヨーロッパのみならず世界中の最前線を走る化学者が一堂に会する大規模学会である。有機化学、物理化学、無機化学、生物化学を初めとして化学に関する広範な分野の専門家が集まるため、専門分野の学会では得られないであろう異分野の海外研究者との意見交換を行える貴重な機会であった。今夏が7回目の開催という比較的新しい学会であるが、毎年参加者が増え続けていることからもその価値の高さが伺える。会議は5日間にわたり開催され、短期の学会よりも多くのディスカッションが行え、コミュニティーを広げられることが良い点である。第7回となる今回は、イギリスのリバプールで開催された。第8回は、2020年にポルトガルの首都リスボンで開催される予定である。
本学会のadvanced organic chemistryの分野にて、『Generation of fused five-membered rings from an aliphatic oligoketone bearing alternating 1,3- and 1,4-diketones』というタイトルでポスター発表を行った。生合成でポリケチドから6員環縮環構造が生み出されるように、脂肪族ポリケトンは多様な縮環構造を導く原料として可能性を秘めている。しかし、生体で見られるようなポリケトンは高すぎる反応性のために、合成して単離することはできない。そこで本研究では、天然とは異なる構造のポリケトンを新たに設計することで、安定に扱えるポリケトンの合成に成功した。さらにそのポリケトンに対して分子内環化反応を行うことで、天然とは全く異なる5員環縮環構造が創られることを明らかにした。原料であるポリケトンは共役した構造を有していないにもかかわらず、五員環縮環から成る生成物は共役系を有していた。更なる共役系の拡張によって、色素や発光体としての機能を付与することにも成功した。
2時間のポスター発表では、海外の多くの研究者(教授やポスドク・大学院生)の方と充実したディスカッションを行うことができた。特に、専門外の研究者には自分が今まで指摘を受けなかった側面からの考察も展開され、今後の研究展開について非常に有意義なアドバイスをいただくことができた。
会場内の様子
今回参加した国際学会では、開催地がイギリスのリバプールということもあり、日本人研究者は自分の研究室メンバー以外にほとんどおらず、全てのコミュニケーションを英語で行う必要があったため最初は非常に苦労した。しかし、渡航前の練習成果もあり、ディスカッションを通して濃密な意見交換を行うことができた。特に驚いたのは、自分が著者として投稿した学術誌のエディターと話すことができた点である。学会には大学の研究者以外にも多くの人が参加しており、そのような方々との交流は貴重な経験となった。
学会を通して自分に足りないものがより鮮明になったので、さらにレベルアップして早く次の国際学会に参加したいと考えている。
最後に、本学会に参加するにあたり多大なご支援をいただいた丸文財団の方々に深く感謝申し上げます。