13th Asian International Seminar on Atomic and Molecular Physics (AISAMP13) は、アジア諸国やオーストラリアからの参加者を中心とした、原子分子物理分野に関する比較的小規模な国際会議である。AISAMPは隔年で開催されており、1985年の第1回目の会議から今回で13回目の開催になる。今回のAISAMP13では、アジア・オーストラリア以外にも、ヨーロッパ諸国やアメリカなど多数の国から研究者が参加し、非常に活発な議論が行われた。AISAMP13は、インドのムンバイにて2018/12/3~12/8の6日間にわたり開催され、うち5日間はIndian Institute of Technology Bombay (IITB) にて、残りの1日はTata Institute of Fundamental Research (TIFR) にてセッションが行われた。
AISAMP13では、原子分子物理が関連する非常に広い分野に関する発表が行われた。例えば、電子・原子・分子・多価イオン等が関与する衝突物理や化学反応に関する研究、フェムト秒レーザーを用いた超高速実験や強光子場科学に関する研究、生体分子等への放射線作用に関する研究、近年注目されているX線自由電子レーザー (XFEL) を用いた研究、冷却原子系を用いたcold collisionに関する研究、更に陽電子等の反粒子を用いた研究など、基礎科学から応用科学にわたる多種多様な発表・議論が行われた。特にインドは電子衝突に関する研究が盛んに研究されており、関連分野の発表では特に活発な議論が交わされた。
次回のAISAMP14はオーストラリアで開催されることが決まっている。
会場の風景 (TIFR)
会場に設置されていた石像@TIFR
12/6のセッションにおいて、“Very-low energy electron collision with H2, HD, and D2”というタイトルで招待講演を行った。電子-分子衝突過程の断面積は、プラズマ中での化学反応や生体分子への放射線作用などを理解する上で重要な物理量である。しかしながら、衝突エネルギーが100 meVを下回る、室温近辺のエネルギー領域の電子衝突断面積に関する研究は、その重要性にも関わらず、実験・理論の両面において未だ多くのことが分かっていない。本研究では、既存の電子-分子衝突理論が超低エネルギー領域にも適用できるかどうかを明らかにすることを目指し、最も基本的な分子であるH2, HD, D2を標的として、100 meVを下回る超低エネルギーにおける電子衝突断面積の測定を行った。その結果、10 meVを下回るエネルギーまで電子衝突断面積を測定することに成功し、また超低エネルギー領域の断面積に同位体効果が存在することを初めて見出した。この超低エネルギー断面積を詳細に解析したところ、100 meVを下回る超低エネルギー領域の断面積は既存の電子衝突理論に従わないことが明らかになった。本研究の結果から、既存の電子衝突理論では分子振動・回転の自由度の取り扱い方法に何らかの問題点があることが示唆される。
講演では、本研究の今後の展望や今回明らかにした電子衝突理論の破れが他の系でも発現する可能性があるかについて質問を受け、活発な議論を行うことができた。
国際会議で口頭発表を行うのは今回が初めてであり、発表内容を正しく聴衆に伝えることができるか不安であったが、実際の発表では研究内容に関して多くの参加者に興味を持っていただけたようで、ひとまずほっとしている。一方、質疑では多くの質問を受けたが、英語力の不足のため、幾つかの質問に対しては十分な回答をすることができなかった。今回の経験を糧に、更なる英語力の向上に努めていきたい。
会議では幅広い分野の講演を聴くことができ、非常に有意義であった。今回の国際会議では、普段あまり触れることのない量子情報分野や冷却原子系の研究に関しても学ぶことができ、自身の研究の視野を広げる大きな助けとなった。
以上のように、今回の国際会議に出席することで、研究成果を国内外の研究者に広く伝えることができただけでなく、今後の研究の発展を考える良い機会を得ることができた。この場をお借りし、今回の国際会議発表をご支援いただいた丸文財団の皆様方に深くお礼申し上げます。