14th International Conference on Modern Materials and Technologies (CIMTEC 2018)は、The National Research Council of Italy (CNR)およびThe Italian National Agency for New Technology, Energy and the Environment (ENEA) の主催のもと、The World Academy of Ceramics (WAC), The International Ceramic Federation (ICF), The International Union of the Materials Research Societies (IUMRS)の共催で行われる。
材料化学を始めとして、物理学、化学、工学などの様々な分野から研究者が集まり、ナノスケールの分子材料からより大きな複合システムまで幅広い領域の研究者が講演を行う。具体的には有機半導体、水素製造・貯蔵、エネルギー貯蔵、燃料電池、バイオマテリアルなどが対象である。
色素増感太陽電池の発明者のマイケル・グレッツェルやペロブスカイト太陽電池の発明者の宮坂力、有機半導体デバイス分野の新進気鋭の研究者である関谷毅などをはじめとする、著名な研究者が多数参加する。総計2,000件ほどの発表が予定されている大規模な国際会議である。
有機電界効果トランジスタ(OFET)は、柔軟性や軽量性などの従来のシリコントランジスタにはない特徴を活かした電子機器の駆動素子として注目を集めている。有機半導体材料は精密に分子設計を行うことで様々な特徴を付与することが可能であるため、電荷輸送特性や大気安定性の向上を指向した分子が開発されてきた。また、有機半導体材料は溶媒に溶解させることで溶液プロセスによる連続塗膜が可能となるので、従来の真空プロセスに比べて大幅にコストを抑えた素子生産が期待されている。
本国際会議では、従来の一直線状にπ共役骨格及びアルキル鎖が伸長した棒状分子とは異なる、アルキル鎖を位置選択的に導入した屈曲型分子の開発について発表した。開発した分子を用いて、基板を溶液に浸漬し引揚げることにより製膜するディップコート法を適用したところ、常温大気下においてcmスケールの広範囲にわたって厚さ40-50 nmの超薄膜が得られた。X線回折測定および原子間力顕微鏡により分子集積構造を調べたところ、U字型分子が引揚げの影響を受け高度に配向していることが明らかになった。作製した薄膜を活性層とする薄膜OFET素子は、引揚に対して平行および垂直方向で電荷輸送特性に40倍以上の顕著な異方性が見られた。さらに、液晶ディスプレイ等の駆動素子に使用されるアモルファスシリコンを超える高いキャリア移動度を示した。
自身の口頭発表時において、面内異方的な電荷輸送についての議論を行った。平行及び垂直方向における電流電圧特性の挙動の微妙な差異を指摘された。これまでの学会発表ではない視点からの質問であり明快に答えることができなかったが、その後の議論を通してデバイス物理に関して新たな知見を得ることができた。今後の研究において大いに活用できる有意義な議論を行うことができ、異分野の研究者と交流することの大切さを実感した。
また、有機半導体デバイス分野の第一線で活躍する研究者の講演を聴講し、当該分野の現状や今後の発展について、より広い視点から自身の研究について捕えることができた。また、本国際会議は有機/無機ではなくより大きな枠組みでセッションが構成されており、自身の研究と相対関係にある無機半導体に関する講演も多数聴講した。これにより無機半導体材料と比較する形でも有機半導体材料の特性や現状を考察し、把握することができたのは大きな収穫であった。
今回は初めての30分の英語口頭発表だったため、従来よりも発表の構成や練習に長い時間を必要とした。その甲斐もあって有意義な議論を行うこともでき、この経験を通して研究能力だけでなくプレゼンテーション能力や英語力も向上したと実感している。