国際会議会場入り口
“Denver X-ray Conference 67th Annual Conference on Applications of X-ray Analysis” は、世界最大のX線の会議として “XRD (X線回折分析)” と “XRF (蛍光 X 線分析)” の最先端技術に関するセッションが設けられ、世界各国からの多くの参加者により開催されている。今回は、アメリカ合衆国コロラド州ウェストミンスターにあるウェスティンウェストミンスターホテルにて2018年8月6日から8月10日の期間で開催され、非常に盛況な国際会議で非常に活発な議論が行われ、刺激的なものであった。会議プログラムは、 “Workshops”、“Poster Sessions”、そして “Oral Sessions” で構成され、それぞれ「新規開発、検出器の応用、エネルギー材料及びイメージング」をトピックスとした “Special topic”、“XRD” と “XRF” の三つの分野で意見交換が行われていた。自身のポスター発表はもちろんであるが、国際交流が目的であるため、可能な限りのセッションに参加した。その他、“Student Lunch”などの会議参加者が参画できるイベントも魅力的なものであった。特に、“Student Lunch” は、学生と会議主催者、学生同士で意見交換し、X線研究の将来について語り合う昼食会で、今回の国際会議参加の一つの目的であった。
ワークショップは、材料研究のための X線分析技術の多くの実用的アプリケーションについて、専門家によるトレーニングと教育が行われていた。開発した装置、ソフトウェア、分析技術に関する新規技術の説明、XRDの産業用アプリケーションやリートベルト法、XRFの文化遺産やリサイクルへの活用、TXRFによる微量元素分析などが取り上げられていた。X 線分析装置による分析及び新規技術開発から応用まで数多くの発表があり、幅広く国際的な分析技術を学ぶことができた。
“Evaluation of Physicochemical Properties of 137Cs in Geological Materials by X-ray Diffractometry (X線回折法と逐次抽出を組み合わせた地質学試料中の137Csの物理化学的性質評価)” という発表題目で、XRDポスターセッションにてポスター発表を行った。福島第一原子力発電所事故により大量の放射性核種が環境中へ放出され、地質学的試料に移行したため、放射性セシウムを含む地質学的試料の物理的・化学的性質を知ることが重要となる。また、放射性セシウムの存在形態を理解することは、それらの形成段階や環境中の挙動を評価する上で非常に大切であり不可欠である。本研究では、地質学的物質中の放射性セシウム、特に137Csの物理化学的性質をX線回折分析とガンマ線測定と逐次抽出法を用いて調査した。地質学的試料の一つである都市ごみ焼却飛灰では材料としてリサイクルも視野に入れた。環境試料中の放射性セシウムの挙動解析のための結晶相分析手法として、X線回折分析最適化と分析手法の提案が目的である。ポスター発表では、X線回折分析手法を基に得られた結晶相情報と放射性セシウムの存在状態を関連づけた。
討論の様子
137Csを分析することの重要性とその化学形態と結晶相の関係から地質学的試料中に含まれる137Csの溶出挙動や結晶相の変化について議論し、導き出される物理化学的性質評価から将来の放射性核種を含む廃棄物の適正処理・処分方法の検討について多くの参加者と議論することができた。討論の中で、137Cs の化学形態と地質学的試料に含まれている鉱物種との関連、溶出試験後の残渣中の鉱物種の変化について考察を述べた。地質学的試料ごとの溶出特性から137Csの挙動及び実験手法の改善について様々な議論を行えた。X線分析の国際会議であるため、結晶相評価に関する内容が多く、専門家の視点での幅広い意見があり、抽出試薬選定及び測定条件について研究の課題を得た。国際学会でアドバイスを受けられたことで、研究内容に深みを持たせるための今後の展望を描くことができた。一方で、自身の研究が国際的にも理解されるものであることがわかり、国際学会での発表と意見交流の重要性を感じた。
国際会議に参加した一番の成果は、BEST XRD POSTERに選出されたことである。日本特有の問題をテーマにした研究をポスターで発表していたため、多くの会議参加者がポスター発表を見に来た。研究内容が近いことや世界で話題になった事故に関連する研究ということで興味を多く持ってもらい、その部分について議論を交わすことができた。今後、成果をまとめていく上で、有用な意見が得られたことも成果であると考える。
ポスター発表の表彰の様子
受賞の記念写真
ポスター発表では、国々の特徴に沿った研究が多いことを知った。インドにおける生活用水や河川の水に含まれる高濃度の重金属が水質の変化によって化学形態が変化し、人体や動植物類にどういった影響を与えるのかといった議論は印象に残るものであった。日本とは異なる問題があり、研究はその国によって様々な特色があることもわかったことも成果であった。
もう一つの成果は、海外の専門家やX線分析研究を志している学生とコミュニケーションできたことである。参加者である学生と会議主催者、さらに学生同士が国際交流できる昼食会である “Student Lunch” は有意義なものであった。近くのレストランを貸し切って行われ、大テーブルに全員が着席し、同じ学生参加者と一緒にハンバーガーやサンドイッチの食事をとった。自ら積極的に同じ参加者である学生にコミュニケーションをとり、研究に関する内容はもちろんお互いの国の文化などについても会話した。英語に慣れない部分も多く何度も聞き返し、近くの学生にゆっくり説明してもらうことで理解できるなど英語コミュニケーションのトレーニングにもなった。“Student Lunch” に向かう際に学会主催者の一人であるTim Fawcett 氏と出会い、会場にどのように来たのか、会場についてどういうイメージを持っていたかなど会話をしながら向かったことも国際交流の一つであった。
国際会議に参加することで、新しい知見の習得、研究の課題、英語での会話など様々な経験ができ、非常に有意義であったと考えている。この度は、国際学会 “Denver X-ray Conference 67th Annual Conference on Applications of X-ray Analysis”への参加に際して助成金を贈呈いただき、誠にありがとうございました。この経験を活かし、研究に邁進したいと思います。深く御礼申し上げます。