Materials Research Society (MRS) は、90ヶ国以上から14,000人以上もの研究者が登録している世界最大規模の材料学会である。学会員は産官学の様々な研究機関から参加しており、それぞれの研究対象も化学、生物学、物理学、工学と多岐にわたる。毎年、春と秋に国際会議が行われるが、今年度秋季はアメリカのボストンにて2018年11月25日から30日の6日間にわたり開催された。参加者は4,000人以上に上り、50種類以上のシンポジウムが執り行われた。また、参加者の40%以上がアメリカ国外からの参加者であり、非常に国際色豊かな会議である。
発表題目:Strain-enhanced topotactic hydrogen substitution in SrTiO3
遷移金属酸水素化物は、O2-とH-を陰イオンとして含む新奇な化合物群で、H-に起因する特異な電子・化学物性が注目を集めている。その合成手法としては、高圧高温での固相反応と、酸化物を前駆体とした低温での水素部分置換反応(トポタクティック合成)が知られている。トポタクティック合成は、前駆体酸化物として単結晶薄膜を用いることで遷移金属酸水素化物の単結晶を得ることができるため、物質固有の性質、特に電気輸送特性の調査に有用である。一方、トポタクティック合成における水素置換量の支配因子については不明な点が多い。
今回、ペロブスカイト型酸水素化物SrTiOxHyに注目し、前駆体酸化物SrTiO3薄膜に基板から面内引張方向のエピタキシャル歪みを印可することで、水素導入量を増大できることを初めて明らかにした。さらに、先行研究以上のH-を含む試料の合成に成功し、SrTiOxHyの電気輸送特性が水素量の増大に伴って金属から絶縁体へと大きく変化することを見出した。
国際会議における初めての口頭発表であり、非常に良い経験が得られた。これまで参加した国内学会と比較すると、規模の大きさはもちろんのこと、口頭発表者の多くが大学教授などのポスドク以上であることが印象的であった。また、朝の8時という早い時間から22時のポスターセッション終了まで会場の至る所で活発に議論が行われ、全日程を通して充実した国際会議であった。とくに、今年度は自身の専門分野である「solid state chemistry」のシンポジウムが5年ぶりに開催されたこともあり、理解をより深めることができた。
私自身が最も強く感じた本会議の特徴の一つは、様々な分野の発表を聴くことができるということである。材料に関する非常に多岐にわたる分野の講演があり、知識の裾野を拡げると同時に、材料科学における最近の流行を明瞭に知る非常に良い機会であった。
最後に、本会議への参加に際し多大なるご援助を賜りました丸文財団に心より感謝申し上げます。