MRS発表会場
本国際会議はMaterials Research Society(会員数約16,000人)によって開催される、材料工学分野において世界最大規模の学会である。毎年春と秋にアメリカ合衆国内で開催されており、材料に関する幅広い分野(エネルギー変換・貯蔵材料、電子・光・磁性材料、熱電材料、バイオマテリアルなど)を扱っている。今回は57のシンポジウムに分かれ、それぞれの分野の最新技術が発表された。また、世界各国からそれぞれの分野をリードする研究者が集い、活発な議論が交わされた。また、国内外の企業がスポンサーとして多数参加し、展示会場では大型の実験装置から論文誌の紹介に至るまで広報活動が行われた。
セッション『ET02 Silicon for Photovoltaics』において、『Effect of slow-speed evaporation of BaSi2 on the performance of p-type BaSi2 / n-type crystalline Si solar cells』というタイトルで口頭発表を行った。
MRS口頭発表の様子
近年、環境に優しいエネルギー源として太陽電池が注目されており、中でも結晶Siと異種材料のヘテロ接合型太陽電池において高いエネルギー変換効率が得られている。本研究室では異種接合材料として有望なp型BaSi2を、大量生産可能なプラズマCVD法と真空蒸着法により薄膜形成することで、現状より高いセル変換効率を達成することを目標としている。
本研究では、真空蒸着において、堆積レートを制御することによりセルの電流-電圧特性が変化し、この構造において世界最高効率である10.62%を達成した。また、この電気的特性の変化の要因を解明すべく、構造分析を行い、低速で堆積した薄膜はアニーリングにより結晶性が著しく向上することを報告した。聴講者からは界面構造や元素分布について質問を受け、本発表内容に関する高い関心を感じ取ることができた。
本会議には同じくBaSi2について研究している他の研究機関の研究者も参加していた。彼らは真空蒸着・MBE・スパッタリング法により作製されたBaSi2膜中に含まれる空孔型欠陥を観測する研究について発表しており、我々の研究にも活かすことのできる知見であった。また、その研究者からは我々の研究について助言をもらうことができた。
BaSi2以外の材料を研究している研究者からも、他の材料で似た現象が起こっていることを助言してもらった。同じ薄膜太陽電池であるCIGS系太陽電池において、基板温度や堆積レートを制御することで、電流‐電圧特性にも変化が起こるというものである。他の材料の情報を得られたことは、様々な太陽電池材料研究者が集う本学会ならではのことであり、本学会参加は非常に有意義であった。