The ACM CHI Conference on Human Factors in Computing System (通称 CHI)は人とコンピュータの関わりを研究するヒューマンコンピュータインタラクション分野における世界最大かつ最高峰の国際会議である。今年のCHIはカナダ、ケベック州、モントリオールにあるPalais des Congrès de Montréalにて開催された。
モントリオールはセントローレンス川沿いに位置し、アメリカ合衆国との国境付近に位置する。ケベック州はその歴史的背景からフランス語が使用されており、現地では英語よりもフランス語が優先して表記され、使われている。
参加者数は3,346名であり、58ヶ国から参加者が集まった。
4月21-22日はワークショップ、23-26日は登壇発表、ポスター発表、デモ発表、VideoShowcase発表などが行われた。採択率は例年と大きく変化せず、Paper 666/2,590(採択率25.7%)、LBW(ポスター)256/642(採択率39.9%)、Demonstrations 77/130(採択率59.2%)であった。採択率が特に低かった項目はStudent Design Competition 12/79(採択率15.2%)およびVideo showcase 15/69(採択率21.7%)であった。登壇発表は発表件数も多いことから複数(20程度)のセッションが異なる部屋にて並列して行われ、セッション毎にある程度固められたテーマの発表が行われた。ポスター発表は1セッションあたり約130件の発表が2セッション、デモ発表は70件程度の発表が行われた。
2日目の4月22日にはアジア圏のHCIコミュニティが中心となって昨年より開催されているCHIのワークショップであるAsian CHI Symposiumが会議内の1セッションとして開催され、3件の登壇発表および26件のデモ・ポスター発表が行われた。
CHIはヒューマンコンピュータインタラクション(HCI)分野の国際会議の中でも評価系の研究が多く発表される会議であり、今回の会議においても多くの手法・法則の評価が行われた。この中でも話題になった研究としてJulien Goriらが発表した「The Perils of Confounding Factors: How Fitts' Law Experiments can Lead to False Conclusions」が挙げられる。この研究はHCI分野において入力インタフェースの法則として長年使用されているフィッツの法則に関して、実験の問題点を指摘している研究であり、様々な意見を呼んだ。
研究タイトル:
User Identification Method based on Air Pressure in Ear Canals
概要:
顎、顔、頭などの頭部運動による外耳道内の気圧変化を用いた個人認識手法およびそのシステムを示す。頭部運動が運動の種類ごとに異なる気圧変化を外耳道内に発生させる事が先行研究にて述べられていたが、我々はそれに加えて、頭部運動による外耳道内の気圧変化は個人ごとに特有の変化を発生させることを発見した。これは複数人が同じ頭部運動を行ったとしても異なる気圧変化が外耳道内に発生するということである。我々はこの発見を用いて、個人認識を行う手法および認識システムを開発した。
討論内容:
会議ではポスター発表に伴ってデモンストレーションが行える環境をそろえた上で議論を行った。ポスターを使った内容の説明だけでなく、実際にイヤホン型気圧センサを装着して動作を行ってもらうことによってより理解が深まったと感じた。論文に記載した被験者数が12人であった事から、それ以上の被験者数を集めた場合に個人差に偏りが生じるかどうかや、どのような身体的特徴が最も個人差を生み出すのかについての議論を行った。
コミュニケーションに関して:
会議全体を通して、国籍を問わず多くの参加者と意見を交換することができた。
自分の研究に対する質問に関しては、質問者の言葉を理解でき、また、返答することができた。また、デモンストレーションを交えた発表は相手側の理解を促進することができ、より深い議論を行う事ができた。他の参加者の研究に対してもポスター発表またはデモ発表においては議論を行う事ができた。登壇発表を聴講した際に理解度が十分でなく、質問できなかった場合も同じ研究のデモ発表の場を用いて疑問を解決することができた。
国際交流に関して:
HCI系の研究が盛んである米国の学生のみならず、そのほかの国の学生とも意見交換を行うことができた。このことによって本研究の意義を見直すことができ、次の研究目標を設定することができた。
感想:
CHIは最高峰の国際会議だけあり、参加者数も多く、研究のレベル感としてもとても高く感じた。自分もこのような会議において登壇したいと強く感じ、会議参加が今後の研究活動の大きなモチベーションとなった。