サンタントニオ聖堂および開催地パドヴァの風景
この度、丸文財団より国際交流助成金としてご支援を賜り、2017年9月10日から9月14日にイタリアのパドヴァ大学で開催されたThe 8th Conference on Nitroxides (SPIN-2017)に参加し、研究成果の発表を行いました。本会議は、生物学から材料化学まで幅広い分野におけるニトロキシドラジカルの最新研究を共有することで、ニトロキシドラジカルの学術・技術の水準向上を目的とした国際会議であり、1979年にKalman Hideg教授がハンガリーで最初のThe 1st Conference on Nitroxidesを創立されてから、3年毎に開催されている伝統的な学術会議となっております。今年は25ヶ国から約120名が参加し、活発な意見交換が世代を超えて行われておりました。
プレナリー講演では、ニトロキシドラジカル分野で非常に著名な先生方の内容の濃い講演を聞くことができ、スピンラベルとしての生体標識が今後のkey topicになり得るとのことでした。学会期間中も、レセプションパーティーやディナー、エクスカーションが用意されており、研究を肴に参加者間の活発な議論や意見交換等、研究者間の交流も活発でした。
本会議では、私は “Magnetic Properties of Discotic Diradical Liquid Crystals” という題目で、口頭発表を行いました。我々は、分子内に環状ニトロキシドラジカル構造をもつキラル有機常磁性液晶に弱い磁場を印加すると、液晶中で特異な強磁性的相互作用が発現することを見出し、これを磁気液晶効果と命名しました。さらに、分子中に二つのラジカル構造をもつビラジカル液晶が、従来のラジカル構造を一つだけもつモノラジカル液晶よりも強い磁気液晶効果を示すことが分かりました。本発表では、新たに合成した分子のコアにシクロヘキサン構造を有するジラジカル化合物の物性について報告しました。このジラジカル化合物は、棒状の液晶性化合物としては珍しく、ヘキサゴナルカラムナー相を示しました。さらに、磁化率測定の結果、SQUID磁束計を用いてモル磁化率の温度依存性を測定したところ、16 K から100 Kの温度範囲で反強磁性的相互作用が、固体-液晶相転移温度でモル磁化率の上昇が見られました。さらに磁化の磁場依存性の測定により、温度に依存しない非線形磁気成分の存在が示唆されるなど、興味深い磁気挙動が観測されております。
これまでに、ラジカル構造を有するカラムナー液晶はわずか4例しか報告されておらず、それらは全てモノラジカルでした。それに対して、我々はヘキサゴナルカラムナー相を示すジラジカル液晶化合物の合成に世界で初めて成功し、それらは非常に特異的な相転移挙動や磁気的性質を示しました。もとより磁性を有する液晶化合物の報告例は数少なく、金属錯体液晶もしくは反磁性液晶に磁性ナノ粒子を組み合わせた研究が多くを占めています。このことから、本研究が与える学術的なインパクトは非常に大きいと考えられます。実際、本発表に対しては、Russian Academy of SciencesのElena G. Bagryanskaya博士やUniversity of YorkのVictor Chechik博士等が非常に興味を持ってくださり、貴重な意見や有意義なコメント、共同研究のお話を多数いただくことができました。そのほか、口頭発表が終わった後の休憩時間において、同年代の学生さんたちや他の先生方からも質問をいただくことができ、非常に有意義で充実した時間を過ごすことができました。
今回、SPIN-2017に参加することで、世界から見て我々の研究がどのような意義を持つのか? 今後この研究をさらに発展させるためには一体何が必要なのか? など、“研究”ということについて深く考える絶好の機会になりました。
最後になりましたが、このような貴重な機会をご支援くださった貴財団に心より御礼申し上げます。