学会会場
2017年7月24(月)から7月28日(金)の5日間にわたりフランス・ストラスブールのコンベンションセンターで開催された第12回窒化物半導体国際会議(12th International Conference on Nitride Semiconductors, ICNS12)に参加し、発表させていただきました。本会議は青色LEDや青色半導体レーザの構成材料である窒化物系半導体に関する世界最大の国際会議で、2年に1度開催されてきました。今回はフランス、ドイツ、イギリス、スウェーデン、ポーランド、ロシア、スペイン等のヨーロッパ諸国はもちろんのこと、日本、アメリカ、韓国、中国から700名以上の研究者、技術者が集まりました。特に、殺菌応用が期待される紫外LEDや次世代ヘッドライト光源である青色面発光レーザ、次世代レーザディスプレイ用高光出力青緑色レーザ、次世代携帯電話基地局用高周波トランジスタ、次世代電気自動車用の高耐圧トランジスタなどの次世代情報通信社会の高度化を担うデバイスとその基礎研究に関する報告と議論が活発に行われました。発表件数は800件近くもあり、そのうち口頭発表260件、ポスター発表533件でした。
近年、次世代レーザディスプレイの光源として高出力・高効率な青色・緑色窒化物半導体レーザの実現が待望されています。これを実現する手法の1つとして、窒化物ナノワイヤを用いた新規のデバイス構造が注目されています。ここで実際に窒化物ナノワイヤを用いてレーザデバイスを作製するには、X線回折測定によりナノワイヤ側壁に作製した量子井戸の構造を解析し、その結果に基づいて結晶成長条件を最適化する必要があります。しかしながら、ナノワイヤ1本の直径が数百nm程度と極めて細いため、通常のX線回折装置では1本1本のナノワイヤの構造評価を行い、その差異を求めることは困難です(X線のビーム径が数mmであるため)。
ポスター発表での様子
そこで、我々は世界最先端の高輝度X線光源を有する大型放射光施設SPring-8に着目しました。ここで利用できるX線マイクロビームにより、単一の窒化物ナノワイヤとその側壁に作製したGaInN/GaN量子井戸の局所構造を解析することに初めて成功しました。この結果を“Structural analysis of GaInN/GaN multi-quantum wells grown on a GaN {1-100} side-wall of nanowire by using an x-ray micro beam”という題目でポスター発表させていただきました。
発表の際には、多くの研究者の方と議論することができましたが、特に窒化物ナノワイヤの結晶成長・デバイス作製に携わる研究者から強い関心を寄せていただきました。試料の作製条件や測定環境に関する質問を多く受け、本測定で明らかにしたナノワイヤ構造が定量的に妥当であるかどうか討論しました。多くの方とディスカッションを経験したことで、窒化物ナノワイヤ構造を有するレーザデバイスの設計と作製に貢献したいという思いが益々強くなりました。
窒化物半導体に関する最新の研究成果について、世界中の研究者・技術者と議論することができ、非常な貴重な機会となりました。多くの研究者と知り合うため、会場では自ら積極的に声をかけ、国内の学会では経験できない国際的な交流を経験することができました。世界で活躍できる研究者となれるよう、今後、国際的なコミュニケーションスキルを磨きながら、研究に取り組んでいきたいと思いました。
会場内の様子
また、窒化物半導体を用いた光デバイスの現状と今後の課題について多くの知見が得られました。近年、青色や緑色領域での光デバイス発光効率(内部量子効率)の向上が求められており、まずはいかに内部量子効率を定量的に見積もるかが課題となります。その分析を元に、発光層の構成材料であるGaInN混晶半導体中の自由キャリア局在化や量子シュタルク閉じ込め効果等、高効率化を妨げる要因をいかに解決していくかが重要だという印象を受けました。
以上のように海外の研究者との国際交流は非常に有意義なものとなりました。本会議に参加するにあたって、貴財団から多大なるご支援を頂いたことに、心より感謝いたします。