「Atomic Level Characterization(ALC)」と題した本学会は、第141回日本学術振興会(JSPS)の第141回マイクロビーム分析委員会の後援のもと、1996年に京都で開催されたものが始まりである。 ALCシンポジウムは、生物材料や有機材料、無機物を含む新しい材料やデバイスの原子レベルのキャラクタリゼーション(原子レベルとエネルギーレベルの両方)の実用化に焦点を当てている。これらのシンポジウムでは、表面および界面分析のさまざまな分析技術のための新しいアプリケーションおよび計測器の説明が求められる。本学会の目標は異なる分野を専門とする研究者間の刺激的な議論を促進することである。このシンポジウムでは、理論とシミュレーションに基づくアプローチを含む、物質の原子レベルのキャラクタリゼーションのさらなる発展と解決すべき根本的な問題の議論も奨励している。
高分子材料と同溶媒に溶解できるドーパントが少ないことからn型ドーピングは極めて困難であった。本研究室では高効率なドーピング法であるEvaporative Spray Deposition using Ultradilute Solution (ESDUS) 法を開発し、ppmオーダーの超希薄溶液から素子を作製することに成功している。ドーピングによってFermi準位を制御することで金属/半導体接合のキャリア注入形態が変化することは無機半導体では広く知られているが、n型高分子半導体ではこれまでに知見がない。本研究では仕事関数の異なる電極を用いたエレクトロオンリーデバイス(EOD)を作製することで、n型ドーピングによる金属/有機半導体接合制御を確立し、従来低仕事関数の活性金属を使うことを余技なくされていたデバイス設計を見直すことを目指す。
本研究ではホストポリマーにMEH-PPV、n型ドーパントに炭酸セシウム(Cs2CO3)を用いてEODを作製した。洗浄したガラス基板上に下部電極Alを50nm真空蒸着し、MEH-PPV溶液にCs2CO3を0~10.0wt%の割合で加え、Al電極上にESDUS法を用いてMEH-PPV: Cs2CO3層を110nm成膜した。その後上部電極であるAl ,Caをそれぞれ50nm真空蒸着し2種類のEODを作製し、電流-電圧特性(J-V)、空乏層幅を評価した。
Cs2CO3のドーピング濃度の増加に伴い電流密度が大きく向上した。上部電極にCaを用いた素子では、ドーピング濃度0, 0.2, 2.0wt%において順バイアス下で逆バイアス下よりも約1桁大きい電流密度が観測された。これはAlとCaの仕事関数の差により、Al/MEH-PPV接合面により大きなキャリア注入障壁位が形成され、Ca電極からの電子注入がより効率的に行われたためだと考えられる。しかし、10.0wt%ドープした素子では、順バイアス・逆バイアス下の両方でほぼ同程度の電流密度が観測され、整流特性が失われた。Cs2CO3のドーピング濃度10.0wt%で整流特性が失われるこの挙動は、ショットキー接合により形成された空乏層がn型ドーピングによるキャリア密度の増加とともに狭くなることによって、キャリアがトンネル効果で効率よく注入されると理解できる。このことは、安定な高仕事関数金属を陰極に用いることができ、有機デバイスの素子設計に大きな自由度を与えることができると考えられる。
主な質問内容としては装置原理や測定手法についての議論を行った。普段我々は透過電子顕微鏡を用いて、材料の評価を行うことが多いが、ALC '17には電子顕微鏡の専門家が多く、有機材料の測定手法について議論を行うことができた。今回の有機半導体へのドーピング手法は無機半導体分野の研究者からも理解され、評価されたと感じている。