会場外観
“New Generation in Strongly Correlated Electron Systems (NGSCES)” は、若手研究者を中心として強相関電子系と呼ばれる物質群における最新の理論・実験研究の動向や将来的な展望について自由に議論・共有することを主眼に置いた国際会議であり、一年に一度開催されている。今回は8回目の開催であり、 9月4日から8日の5日間にわたっておよそ50件強の口頭発表と十数件のポスター発表が行われた。主なトピックは量子磁性、非平衡量子ダイナミクス、トポロジカル絶縁体やスピン軌道結合系における電子相関効果、ナノスコピック系における強相関効果、非従来型超伝導であり、いずれも近年著しい進展が見られ、盛んに研究がなされている。今回会場となった The Institute of Photonic Science (ICFO) は光に関連する科学技術研究のために2002年に設立された比較的新しい研究所であり、観光地としても有名なスペインのバルセロナに設置されている。
次回は2018年9月にスペインのサン・セバスティアンにおいて開催される予定である。
外場による磁性の制御は、近年精力的な研究がなされているスピントロ二クスにおいて不可欠な技術である。特に光による磁性制御はサブピコ秒からフェムト秒領域の超高速制御が可能であり、光を用いたスピントロ二クスの基礎原理を確立する上で重要な課題として認識されている。これまで磁性材料として鉄族金属や希土類化合物が広く用いられているが、本研究で対象とする相関電子系は次世代の光磁性材料の候補として捉えられている。これは大きなエネルギースケールのために高速な制御が可能であること、電子の電荷(伝導)とスピン(磁性)が密接に結合することに由来する。一方でその強い相互作用のために、相関電子系の磁性制御の基礎原理はこれまで限られてきた。
本研究では、二重交換模型と呼ばれる理論模型において、その光誘起非平衡ダイナミクスの数値シミュレーションを行った。この模型は動き回る伝導電子と局在するスピンとが強く結合した遍歴磁性体の最も基本的な理論模型の一つであり、反強磁性状態に光照射を行うことで強磁性が発現することがこれまでの研究により見出されている。本研究では、これとは逆過程である、強磁性状態に光を照射することで反強磁性状態が発現することを初めて見出した。これが光の照射により強い非平衡状態が実現し、電子の運動が抑制されたことに起因することを明らかにした。さらに、この現象が模型に含まれるパラメータや系の次元によらず広く普遍的に実現すること、連続単色光のみならずパルス光においても可能であることを見出し、実験による検証の可能性を指摘した。以上の現象は、これまで一方向のみ可能であった磁性変換が、双方向で実現し得ることを初めて指摘したものであり、光を用いたスピントロ二クスの基礎原理として応用されることが期待される。
上記2.の研究成果について、“Optical conversion of magnetic structure in strongly correlated itinerant magnets”という題目で15分間の口頭発表を行った。5分間の質疑応答では4-5件の示唆に富んだ質問とコメントをいただいたほか、その後の休憩時間でも有意義な議論を行うことができ、多くの方に関心を持っていただけたように感じられた。
他参加者の講演内容も大変興味深く、これらの聴講や議論を通して多岐にわたる研究の中での本研究の位置付けや関わりを認識でき、今後の研究に有用となる知見が得られた。
本会議では博士研究員や大学院博士課程の学生等の比較的若い研究者を中心として活発な議論や交流を促すことが主眼に置かれていることもあり、様々な国の同年代の若手研究者との交流を持つことができたことも非常に有意義であった。
本会議への参加にあたり多大なご支援を賜った貴財団に厚く御礼申し上げる。