会場の様子
アモイの夜景
太平洋高分子学会 (Pacific Polymer Conference、PPC) は、1989年に太平洋高分子連合 (Pacific Polymer Federation、PPF) によって設立され、2年に1回PPFメンバー国で開催される。近年では韓国 (Jeju Island、2011) 、台湾 (Kaohsiong、2013) 、アメリカ(Kauai、2015) などの国で開催されていた。当国際学会の目的は太平洋地区および世界中の高分子分野の様々な研究者を集めて学術的に豊富な交流や議論を行い、高分子研究をより発展させることである。今回のPPC-15は中国科学協会 (Polymer Division, Chinese Chemical Society、PDCCS)とPPFの主催で中国・アモイ(厦門)の国際会議展示場 (Xiamen International Conference & Exhibition Center) で開催された。アモイは中国の福建省の南部に位置しており、中国の5大経済特区の1つである。本学会には、「Polymer synthesis & characterizations」、「Polymer structure, processing & properties」、「Polymers for optoelectronics & energy」や「Polymers for environmental applications」などの広いセッションで構成され、世界中の国々から大勢の参加者が集まってきた。そして、高分子研究に関して広い分野の研究報告が多く行われ、たくさんの研究交流ができた。主催側の説明によると今回のPPC-15には800人を超える参加者が様々な国から集まってきたそうである。
今回のPPC-15では、「Preparation and Characterization of Polymer Blend-based Concentrated Lithium Electrolytes」という題目でポスター発表を行った。
固体高分子電解質 (SPE) は、従来の液体型電解質と比べ安全性が高く、柔軟性かつ軽量であるという利点から、次世代二次電池用電解質材料として期待されている。今までのSPEの研究はポリエチレンオキシド (PEO) を中心に様々な研究が行われてきたが、電解質のイオン伝導性の理論的な限界が見られてきた。一方、ポリカーボネートは、高い生体適合性、良好な生分解性、低毒性などの特徴を持っていながら従来のポリエーテル型電解質と異なるイオン伝導挙動を示すことが分かった。具体的にはPEC型電解質において添加したLi塩濃度に伴いイオン伝導度が増加し、濃厚状態では0.6以上のLiイオン輸率が得られることがこれまでに明らかになっている。その代表的なポリカーボネート材料がポリエチレンカーボネート(poly(ethylene carbonate), PEC)とポリトリメチレンカーボネート(poly(trimethylene carbonate), PTMC)である。一方、PEC型電解質は良いイオン伝導性を持つが、低い熱的安定性が一つの大きい課題である。それに対し、PECと非常に似ている化学的構造を持っているPTMCはPECより優れた熱的安定性を示す。しかし、PTMC型電解質はPEC型電解質と比べてイオン伝導性が低い。そこで、本研究では、PECとPTMCのブレンド型電解質を作製し、PEC型電解質とPTMC型電解質の課題を改善するともに電池への応用を評価した。PECとPTMCは非常に似ている化学的構造を持ちながら、お互いに全く相溶しなかった。しかし、PECとPTMCにLi塩を添加するとお互いに相溶するようになり、塩の量を増やすとより均一に混合できるようになった。さらに、Li塩濃度の増加とともにブレンド型電解質のイオン伝導度も上昇し、耐熱性も向上することが分かった。これは、Li塩がPECとPTMCの間で架橋剤のような役割をしており、ポリマー同士が混合できるようになって耐熱性が改善され、イオン伝導度が上昇したと考えられる。 また、ブレンド型電解質を電池セルに用いて評価したところ、全固体高分子電解質電池としてちゃんと充放電ができており、比較的に高い電池容量も得られた。本成果は、固体高分子電解質の電池への応用において基礎的な課題を改善する研究であり、濃厚型高分子電解質の発展に大きく寄与できると考えられる。
バンケット会場の様子
本学会に参加できて最も良かったことは、より多くの人に自分の研究を分かってもらうことができたことである。上で説明した通りに、本研究は高分子材料を二次電池に応用する研究である。報告者は本学会 (PPC) には初めての出席であり、PPCには本研究のように高分子材料を二次電池に応用する研究発表はあまりなかった。そこで、本研究の目的と未来性を世の中の多くの研究者に説明でき、多くの人から興味を持ってもらうようになったことは大変意味深いと考えている。また、新しくできた多くの研究仲間たちと様々な議論ができ、違う角度から普段とは異なるアドバイスなどをたくさんもらえたことは今後本研究をより発展させることに非常に役に立つと考えている。そして、今後自分の研究を他分野の人にも理解しやすく説明できるようによりスキルアップしていきたいと考えている。最後に、丸文財団に渡航のご支援をいただき、このような学会に参加できたことを深く感謝している。