学会会場の様子
International Conference on Luminescence (ICL) は、ヨーロッパ・アジア・アメリカの各都市を巡回しながら約3年ごとに開催される国際会議である。第18回となる今回は南米初の開催となり、5日間にわたってブラジル北東部パライバ州の沿岸都市ジョアン・ペソアにあるThe João Pessoa Convention Centerで行われ、パライバ州立大学が中心となって運営された。ICLは光物性・発光材料に関する学術会議のうち世界でもっとも大きく歴史のある国際会議であり、その発表分野が非常に幅広いことが特徴である。今回もLED用蛍光体やレーザー材料、シンチレータといった発光材料そのものに関する発表から、発光原理に関する発表、発光材料を用いた機器や光検出器の開発方法など、多岐にわたる分野で発表が行われた。世界中から450人を超える研究者・学者が参加し、5日間の会期を通して5件のPlenary talk、13件のKeynote talk、48件のInvited talkに加え、約140件の一般口頭発表と300件を超えるポスター発表が行われた。特に発光材料に関する発表が多く、そのなかでも3価Ceや2価Euなどの希土類元素イオンが示す5d-4f電子軌道間遷移に基づく発光を有する材料について、希土類元素濃度や母材の組成、材料の作製方法による特性の変化を議論する発表の多さが目立った。18th International Conference on Luminescence (ICL2017) のProceedings論文はJournal of Luminescenceにて出版予定である。
開催期間である8月末は、南半球に位置するブラジルの真冬に当たる時期であったが、ジョアン・ペソアは南緯7度と非常に赤道に近い街であったため、まるで夏のような気候で会議が開かれた。雲ひとつない晴天から突然スコールのような雨が降り出したこともあり、赤道付近特有の気候に驚かされた。
学会ポスター
私は単結晶シンチレータに関する研究を行っている。シンチレータとは放射線(ガンマ線やX線、アルファ線など)のエネルギーを吸収し、よりエネルギーが低い光(紫外~可視~赤外)へと変換する機能性材料である。材料内部での光の散乱が起こると放射線の検出が効果的に行われないため、透光性の高い単結晶材料がシンチレータに適しており、世界中で単結晶シンチレータの研究が行われている。放射線検出器としてのシンチレータの応用先は大変幅広く、福島第一原子力発電所周辺をはじめとする放射性物質飛散区域での空間線量検査機や、医療機器、宇宙物理といった高エネルギー物理の研究分野など多岐にわたる。
ICL2017において、私は「Photo- and radio-luminescence properties of Cs2HfCl6 single crystalline scintillator」の題でポスター発表を行った。Cs2HfCl6は2015年に報告された比較新しいハロゲン化物単結晶シンチレータ材料であり、良好なシンチレーション特性を有することから実用化が強く求められている。しかしCs2HfCl6の発光の基礎物性に対する調査はいまだ進んでおらず、そのため特性の最適化方策がいまだ定まっていないことが課題となっている。そこで本研究において、私はCs2HfCl6のフォトルミネッセンスおよびラジオルミネッセンス発光特性を調査した。単結晶Cs2HfCl6は所属研究室で自ら作製し、測定は所属研究室とチェコ科学アカデミー・物理学研究所(共同研究先)において行った。発光スペクトルや蛍光寿命、およびそれらの温度依存性を調べ、評価の結果、発光は不純物(Zr)由来の欠陥に起因する欠陥発光が支配的である可能性を見出した。
ジョアン・ペソアの街並み
ICL2017では世界中の研究者と発光に関するディスカッションを行うことができた。開催地がブラジルということもあり、アジアなどでの国際会議ではなかなか話す機会のない南米の研究者らとディスカッションを行うことができたのは初めての経験であり、大きな成果となった。開催地ジョアン・ペソア近郊のレシフェという都市にはブラジルの原子力研究施設があり、ICL2017にはその研究施設から放射線関係の研究者が多く参加した。南米の原子力・放射線の研究者らから私の研究について強い関心を持っていただくことができ、非常に有意義な時間を過ごすことができた。また、私が主に行っている研究は材料探索や結晶育成であり、光物性的知識はまだ勉強中の部分が多いが、光物性専門の研究者の方々とのディスカッションを通してこれから勉強を深めるべき点を再確認することができ、大変有意義な知見を得ることができた。
学問の勉強のみならず、自身の他言語コミュニケーション能力を磨く必要に気づくことができた。いわゆる一般の英語の話者とはコミュニケーションをとることができる自信はあったが、世界各国の訛りが入った英語となると途端に聞くのが難しくなり、コミュニケーションが困難になったのを何度か経験した。このことから、研究者として世界で活躍するためは英語を話せることは最低の前提条件として、それに加えて様々な言語のイントネーションを学ぶべきだと感じ、今後のために言語を学ぶモチベーションを得ることができた。
最後に、本国際会議に参加するにあたり、国際交流援助をいただきました一般財団法人丸文財団に心より感謝いたします。