International Conference on Spontaneous Coherence in Excitonic Systems (ICSCE) は固体中の様々な電子励起の量子的な集団現象とそれに関連する物理に関する国際会議であり、第8回にあたる今回の会議はスコットランドの首都エジンバラにて開催された。世界各国から発表者が集まり、固体中の素励起である励起子と光子フォトン、またそれらの混合状態であるポラリトンを主な対象として、凝縮状態やレーザー発振、超放射、強相関相といったトピックについて、2件のプレナリー講演と22件の招待講演を含む49件の口頭発表と31件のポスター発表が行われ、活発な議論がなされた。
また、次回の会議にあたるICSCE9は2018年にカナダのモントリオールで行われる。
“Excitonic valley coherence with resonant excitation in monolayer MoS2”という題目でポスター発表を行った。単層MoS2は、電子の結晶運動量に対応するバレーを擬スピンとして用いることでデバイスの高速化・大容量化を目指すバレートロニクスデバイスの実現を目指す上でそれに適した物質として研究が進められている。本研究では、バレーを用いた量子情報への応用を見据える上で重要なバレーコヒーレンスに着目した。これまで単層WSe2などの単原子層物質の励起子発光においてバレーコヒーレンスが報告された例がいくつかあるが、エネルギー緩和を伴う発光過程でどのようにコヒーレンスが保たれるのか、疑問が残っている。このエネルギー緩和を含むバレーコヒーレンスのメカニズムを解明するために、励起子共鳴励起または非共鳴励起下での発光およびラマン散乱の偏光依存性を調べた。
化学気相成長法によって作成された単層MoS2において共鳴励起下でのバレーコヒーレンスを観測した。バレーコヒーレンスは直線偏光の保存に対応する。同時に共鳴ラマン散乱の偏光依存性を測定し、励起光あるいは出射光が励起子準位に共鳴した際に用いられる共鳴2次光学過程の枠組みで発光とラマン散乱を統一的にとらえることができることを提案した。発光とラマン散乱の偏光依存性を詳細に測定し、偏光選択則を議論した。また、共鳴ラマン散乱の偏光選択則の見地から理論的考察を行い、実験との整合性を示した。これらの結果から、バレーコヒーレンスはフォノンの吸収・放出を伴う共鳴2次光学過程の枠組みで理解できると結論づけた。
エジンバラ城
今回の会議は励起子・ポラリトンに関する学会であり、自分の研究内容は会議の中心とは少し異なっているように思っていた。しかし、近年単原子層物質の研究が盛んになり、単原子層物質中の励起子・ポラリトンの研究が注目を集めていることで、サンプルに興味を持っている参加者がとても多く、予想以上に活発な議論をすることができた。英語でのコミュニケーションに苦労し、質問を何度も聞き返したり言葉足らずになったりして情けない思いをしたが、こういった経験を忘れずに精進していきたいと思えるものになった。少しではあるが食事会などで海外の研究者の人たちとも交流を深めることができたと思う。スコットランドのとても美しい街に滞在できたことも一生の思い出であり、今後も積極的に国際会議に参加して研究を進めていける人材になりたいと強く思った。