会場ホテル
International Glow Discharge Spectroscopy Symposium (IGDSS) は、グロー放電分析の関連研究を広く取り扱う国際会議で、基本原理(グロー放電内で生じる衝突過程等)、装置の開発、分析方法論、薄膜分析法等の分科会がある。主催のEuropean Working Group for Glow Discharge Spectroscopy (EW-GDS) は、ISOを始めとする分析標準の設立も担っており、当該分野を先導する国際会議と言える。本会議には、ヨーロッパ諸国(イギリス、ドイツ、フランス、スペイン、スウェーデン、ノルウェー、スイス、スロバキア、チェコ、ベルギー、ポーランド、イタリア)を中心に、アメリカ、カナダ、中国、韓国、日本から80名が参加し、23件の口頭発表、16件のポスター発表が行われた。非常に専門性の高い会議で、活発な討議が行われた。次回は、2018年春季にスペインにおいて開催される予定である。開催地であるリバプールは、イギリス産業革命時に貿易の中核を担っていた港町で、その当時の海港都市が保存され、世界遺産にも登録されている。
生体用金属材料は、その優れた強度と靱性から体内埋入型デバイス(インプラント)の約80%を占めており、その研究開発が進められている。一方で、力学特性発現に有用な金属元素が体内へ溶出した場合に毒性を示す例が報告されており、安全性の確保が組成探索に基づく合金開発のボトルネックとなっている。本研究の目的は、このブレークスルーとなる表面処理技術を構築することである。
発表の様子
高弾性率を示す生体用Co-Cr-Mo合金は、血管狭窄部治療用のステント材料としての利用拡大が期待されている。しかし加工性改善のため、アレルギー発症リスクのあるNiの添加が避けられない。しかし、Niは生体毒性が指摘されているため体内への溶出抑制が不可欠である。本研究では、この要求を満たすための新たなプラズマ表面処理法の開発に取り組んだ。プラズマを用いた表面処理技術は、様々な分野で応用されているがそのメカニズムについて学術的な理解が十分でなく、処理に係る放電パラメータは経験的に決めているのが実情である。そこで派遣候補者らは、研究の第一段階として、「プラズマ中の励起子(金属試料における表面反応の反応子)」とそれにより形成する「表面処理層の性質」との関係性の解明を試みた。発光分光分析によりプラズマの励起状態を詳細に解析した結果、スパッタリングによりプラズマ中に導入される金属元素量と表面層との間に重要な関係があることが明らかになった。また、従来学説では指摘されてこなかった混合ガスプラズマの励起機構について、選択則が存在し、ガス粒子間の励起エネルギーの供与頻度は0.1 eV単位で大きく変化することを突き止めた。
リバプール市内
今回は、修士から取り組んできた研究テーマについて、最も専門性の高い国際会議のひとつであるIGDSSにおいて口頭発表を行うことができ、大変貴重な機会だった。発表は様々な国の研究者の方に聴講いただき、自身の研究を知ってもらう楽しさを味わうことができた。発表後の質疑応答時間だけでは議論し尽せず、コーヒーブレイクに及んで討議を深め、今後の研究に対する重要なヒントを得た。また、グロー放電プラズマ発光分光学およびグロー放電プラズマを利用した元素分析に関して、最先端の研究発表に触れることで、産学両面から今後解決すべき研究課題を見つけることができた。
最後に、本会議に参加するにあたりご支援をいただいた一般財団法人丸文財団に心より感謝する。