学会会場の様子
International Conference on Radiation Shielding (ICRS) は、放射線遮蔽・防護に係わる国際的な研究の総括、促進、さらに原子力エネルギー・放射線利用の発展を目的とした国際会議で、Topical Meeting of the Radiation Protection & Shielding Division of the American Nuclear Society (RPSD) を兼ねて開催される。ICRSは、第1回の1958年のイギリス・ケンブリッジより、4~5年毎にヨーロッパ、アメリカおよび日本で順番に開催されており、第10回以降はRPSDとの共同開催となっている。
第13回となる今年は、フランス・パリにて10月3日から6日にわたって開催され、26ヵ国303名もの研究者(学生37名)が参加し、研究成果の発表と議論が活発に行われた。また特別セッションとして福島第一原子力発電所事故後の環境放射線モニタリングや空間線量評価、放射線防護など関する特別セッションも行われ注目を集めた。
発表の様子
「Development of An Epi-thermal neutron Field for Fundamental Researches for BNCT with DT Neutron Source」という題目で、口頭発表を行った。
近年、新しいがん治療法として注目されているホウ素中性子捕捉療法(Boron Neutron Capture Therapy (BNCT))の中性子源として、加速器型中性子源(Accelerator Based Neutron Source (ABNS))の開発が進められてる。ABNSを用いたBNCTの普及のためには、加速器ごとの中性子強度・中性子スペクトルの高精度測定が必要不可欠である。しかし、BNCTで使用される熱外中性子領域(0.5eV~10keV)の中性子スペクトル測定は難しく、その測定手法は確立されていないことから、筆者等の研究グループでは、位置敏感型比例計数管を用いた低エネルギー中性子スペクトロメータの開発を進めてきた。本研究では、Deuteron-triton (DT) 核融合中性子源を用いた熱外中性子場の設計・製作を行い、製作した中性子場を用いてスペクトロメータの実験的検証を行った。熱外中性子場の設計・製作では、熱外中性子をフッ化アルミとテフロンを組み合わせた減速材により取り出し、また余分な高速中性子は鉄とチタンを組み合わせることで取り除いた。スペクトロメータの実験的検証は、比例計数管の側面から入射する中性子の影響により高精度測定が難しいことが分かった。そこで炭化ホウ素やホウ素入りポリエチレンで構成される中性子コリメータを設計し、中性子場の前方性を高め、側面からの入射を抑えることに成功した。
実験室規模でのDT核融合中性子源からの熱外中性子場の構築は、日本国内では初の試みであり、世界的にも例がほとんどないため、多くの研究者の注目を集めた。また、特に、熱外中性子場に使用した鉄からの即発γ線の影響については相次いで質問があり、セッション終了後まで議論した。
エッフェル塔
本会議は、放射線防護・遮蔽の分野では世界最大の国際会議であり、放射線計測や遮蔽実験、空間線量率などの多岐にわたる研究についての専門家が参加し研究発表・議論が行われた。特別セッションの福島第一原子力発電所事故に関するトピックでは、特に議論が活発に行われ、世界が注目している議題であることを再認識するとともに、原子力・放射線に携わるものとして非常に刺激になった。
筆者は、国際会議への参加が初めてであり、英語での口頭発表は非常に緊張と不安を感じた。発表当日は、発表会場が満席になる程多くの方に聴講に来ていただけたが、自身の英語力が不十分であったため、研究成果を正確に伝えることができず、質疑応答の際も詳細に議論することができなかった。また、他の研究者の発表も理解できなかった部分が多く、英語力向上に努めなければならないと強く感じた。しかし、国際会議の雰囲気を十分に知ることができた上、懇親会やコーヒーブレークでも多くの人と交流することができたたことは、素晴らしい経験となった。そして、会場となったホテルがあるパリの、美しい初秋の風景を散策し、フランスの歴史を感じさせる建築物を巡ることができたのは、大きな喜びだった。
最後に、本会議に参加するにあたり、多大なるご支援をいただきました貴財団に心より感謝申し上げます。