E-MRS (ヨーロッパ材料研究協会) は1986年に設立され、3,200人以上の会員が所属しています。同分野ではMRS (アメリカ材料学会) に次いで規模が大きく、権威のある学会です。毎年春に行われる会議は機能性材料の最近の技術動向を議論することを目的としており、世界中から約2,500人が参加します。非常に幅広い分野での議論が行われ、他分野に跨る科学者や技術者の情報交換を盛んに行うことができます。私が参加した会議はフランスのLilleで行われました。Lilleはベルギーとの国境に位置する街で、市庁舎の鐘楼は世界遺産に登録されています。Lilleは賑わっておりながらも治安が良く、過ごしやすい街でした。
次回の2017年の春の会議は例年の開催地となっていた世界遺産の街Strasbourgに戻り開催される見込みです。
“Impacts of Gate Bias and its Variation on Gamma-ray Irradiation Resistance of SiC MOSFETs”というタイトルでポスター発表を行いました。私達の研究では、高い耐放射線性を有する炭化ケイ素半導体(SiC)を東京電力福島第一原発の廃炉作業等の過酷な放射線環境で使用するロボット用の半導体デバイスへ応用するため、SiC 金属-酸化膜-半導体 電界効果トランジスタ(MOSFET)の耐放射線性を強化する技術の開発を進めています。これまでの研究で、ゲートへの正バイアス印加状態ではガンマ線照射によりしきい値電圧等のデバイス特性が著しく劣化することが明らかになっていました。一方、私達の研究グループでは、デバイス動作状態、つまり矩形波印加状態でのガンマ線照射では特性劣化が軽減されることも発見しています。この結果には矛盾が生じていたため、本研究では正バイアス印加状態で照射することで特性を劣化させた試料をゲートバイアス0Vや負電圧下で再度照射し劣化特性に及ぼす影響を調べました。その結果、正バイアス下照射で劣化したデバイス特性は、ゲート電圧が0Vや負バイアス状態での照射で大幅に回復することを発見しました。このことから、スイッチングデバイスとしてSiC MOSFETを使用する場合、正バイアスで劣化した特性が0Vでの照射により回復することで劣化が抑制されるため、この抑制を考慮して劣化予測を行う必要があると結論できました。
今回参加したシンポジウムは “Wide bandgap materials for electron devices” で、本会議から新設されたシンポジウムでした。そのため参加者は100人程度ではありましたが、非常に活気のある議論が行われていました。私が参加したポスターセッションにおいては、62人が発表するなど、新設ながら非常に活気のあるシンポジウムでした。英語による発表は非常に緊張しましたが、たくさんの方と話すことができました。特にチェコ工科大学のP.Hazdra様はSiC MOSFETとGaN HEMTへの電子線効果と、私達と非常に近い研究を行っており、お互いの研究についての意見を交換することができました。今まで私達が考えていなかった劣化についてのアドバイスもいただくことができ、今後大いに参考にしたいと考えております。ただ、英語のスキルが足りずに議論がスムーズにできなかったことが心残りです。英語のスキルを高め、議論をスムーズにできるよう精進したいと考えています。
最後に、本会議の参加にあたり、支援いただきました貴財団に心より感謝申し上げます。