E-MRS (European Materials Research Society) は1983年に設立された、欧州の材料研究会です。機能性材料の最近の技術動向を議論するために定期的に会合産業界、政府、学界、研究実験室から3,200人以上のメンバーを集めています。毎年約2,500の研究者が参加し、最高の国際的意義のあるものとして認識され、ヨーロッパのその種の会議では最大規模を誇っています。各シンポジウムは、材料の成長と特性、新しい高度なプロセスの開発、および機能性材料の優れた物理特性の電子デバイスの開発の情報を公開しています。
今回のE-MRSはフランスのリールで行われ、温暖な気候の下、穏やかに学会に臨むことができました。
東京電力福島第一原発の廃炉作業用ロボットのため、私は高い耐放射線性を有するパワーデバイスである炭化ケイ素( SiC )に着目し、その金属-酸化膜-半導体 電界効果トランジスタ( MOSFET )の耐放射線性強化技術を開発しています。ガンマ放射線照射によるSiC MOSFETの劣化の主原因は酸化膜中に発生する正の固定電荷であることを見出しています。一方、Si MOSデバイスにおいては、正の固定電荷発生量は酸化膜厚に依存し、ゲート酸化膜が薄いほど高い耐放射線性を有することが報告されています。そこで、より耐放射線性の高いSiC MOSFETの構造条件に関する知見を得るために、ゲート酸化膜厚の異なるSiC MOSFETにガンマ線照射を行い、電気的特性の変化を調べました。結果、酸化膜厚が大きいSiC MOSFETの方が高線量域でのしきい値低下が大きく、より少ない線量でノーマリーオンへと至りました。これより、SiC MOSFETにおいても酸化膜厚は放射線による特性劣化に影響を及ぼし、酸化膜が薄い方がより高い耐性を持つことが示されました。
今回私はE-MRSという学会の中でも“Wide bandgap materials for electron devices”というシンポジウムにポスターセッションで参加させていただきました。このシンポジウムの開催は今回が初でしたが、口頭発表、ポスター問わず活発に意見が交わされていました。私は拙い英語のせいで緊張してしまいましたが、海外の研究者たちと議論を交わすことができ、自分の中の知識、経験を豊かなものにすることができました。国内の学会とは環境も言語も違う中での発表は、これからの私の研究者生活にとって有意義なものとなり、また、日本と外国の意識、考え方の違いについても触れることができ、人間的にも成長することができました。
このような実りのある国際学会への出席にご支援をいただいた丸文財団の皆様に深く感謝を申し上げます。