会場となったEngineering Auditorium
今回参加したInternational Conference on Optical MEMS and Nanophotonics 2016 (OMN 2016) はIEEE Photonics Society により、7月31日から8月4日までの5日間にわたってシンガポール国立大学(NUS) にて開催されました。OMN は1996年から毎年開催されており、第21回目の開催となる今回は、100件を越える口頭発表に加え、20件程のポスターセッションも行われました。
発表は2つの大教室にて行われ、光MEMSとナノフォトニクスという2つのテーマに分けられ、並行して進められました。研究分野が絞られている上に、2室のみであるため、研究内容に精通した参加者同士で濃密な議論が行うことができます。
発表されていた内容について、ここで全てを取り上げることはできませんが、ナノフォトニクスのセッションの中では表面プラズモン共鳴を利用したバイオセンサーや光共振素子の他、周期的なナノ・マイクロ構造により負の屈折率などの光学特性を付与するメタマテリアルの研究が多く報告されている印象を受けました。また、光MEMSセッションでは、内視鏡や光干渉断層像(OCT)などへ実装可能な熱駆動型MEMSミラーの開発や、エレクトロウェッティングを利用した焦点距離を調整可能なフレネルレンズの開発などについて、発表がなされていました。
シンガポールは東京23区程度と非常に小さな島ですが、その島内の南西側に位置するNUSは広大な敷地を有しており、大学構内の移動でもバスがなければ会場までたどり着けない程でした。また、NUSはTimes Higher Education が発表した2016年アジア大学ランキングで1位となったことで昨今話題を呼んでおり、大学構内の施設や研究室を見学するツアーもセッティングされていました。
次回のOMNは2017年アメリカ合衆国ニューメキシコ州サンタフェにて開催予定です。
発表の様子
私の研究では拡散現象のミリ秒~秒オーダーでの観察を実現するセンサーを開発しており、生体試料の高速・多並列分析を目指しています。提案手法ではoptoelectronic tweezers (OET)と呼ばれる生体分子駆動技術を応用した、レーザー誘起誘電泳動(LIDEP)という濃度分布形成手法を用いて拡散現象を誘起、観察します。
今回はBiomedical Application II というセッションにおいて“Study on High‐Speed and Compact Optical Bio‐Sensor for Sample Size Analysis” と題して発表しました。研究成果として、まず1つ目に他のOET研究例と異なる手法を用いて光導電膜を成膜し、適用性を評価したということ。2つ目に、作製したデバイスを用いて測定し、溶液中に存在するナノ粒子について、50 nm 程度というナノスケールの差を数秒の観察結果から検知したということ。3つ目に生体試料測定に向けて、インピーダンスの観点から測定が困難となる緩衝液添加溶液中のナノ粒子を測定したことを報告し、生体試料測定に向けた適用可能性を示唆しました。
発表後の質疑
質疑応答では、OET の開発者であるUCLAのEric Pei Yu Chiou 教授をはじめ、LIDEPの特性が開発した光導電膜の特性により大きく影響される原因が何であるかという質問や、LIDEP励起条件および電気浸透流の影響はないのか、といった質問をいただきました。これらについて、インピーダンス特性を示しながら討論しました。また、発表終了後もシンガポール大学のSung-Yong Park 助教授から質問を受け、独自に開発している光導電膜の評価手法について議論しました。
豊田工業大学 佐々木実 教授と
ハワイ大学 A. T. Ohta 准教授
今回参加した OMN 2016 は自身4度目の国際会議でしたが、発表の質疑以外にも多くコミュニケーションを取ることができました。会議期間中の昼食は、会場の大学校舎内や中庭にてビュッフェ形式でとりました。その際、私の研究で利用しているOETを開発したチームの一員である、ハワイ大学のAron Takami Ohta 准教授と同じテーブルで昼食をとり、研究のみならず幅広い話題についてお話しすることができました。今回参加した会議ではまさにOET技術を築き、日頃拝読している論文を執筆したスターのような方々とディスカッションすることができ、本当に感動的でした。
また、ソーシャルイベントとして企画されたNUSの研究室見学ツアーにも参加しました。見学したクリーンルーム内には仕切りがなく、広大な室内全体が見渡せる構造となっており、そこへ数々の微細加工装置が所狭しと並んでいました。
さらに、見学した研究室棟はガラス張りになっており、廊下から各研究室の様子がすっかり見えてしまう構造となっており、熱心に研究に打ち込む研究者や学生の姿を見ることができました。このように外からの見通しを良くすることで、研究者同士が垣根なく交流できるような環境づくりが行われているようでした。さらに、Singapore Institute for Neurotechnology (SINUPUS) の研究施設において、神経系の研究のために脳の活動を可視化するLED素子の開発や、それをマウスへ装着を行う現場を視察し、見慣れない生きた動物を扱う研究の世界に、強い刺激を受けました。
最後に、発表の機会ならびに研究者の方々と知り合う機会を得た OMN 2016 への参加にあたり、貴財団から多大なる支援を賜りました。心よりお礼申し上げます。