XXI Conference on Liquid Crystals Chemistry, Physics and Applications2016 (CLC2016)は2年に一度開催され、40年の長い歴史を有する学会であり、参加者は、液晶研究が非常に活発であるヨーロッパの国々を中心としている。Polish Liquid Crystal Societyが主催しており、ヨーロッパの研究者を中心に多くのネットワークを形成することができ、液晶に関連する光学及びフォトニクス、ディスプレイに関する研究者の積極的なディスカッションが繰り広げられている。また参加者の総数は120名と数はそれほど大人数というわけではないが、日本人は私を含めて6名であり、海外の研究者たちと多くディスカッションするにはうってつけの場である。さらに、宿泊ホテル内で学会が開催されるため、常にホテル内のどこでも研究者同士でディスカッションを繰り広げることができるため、日本以外の多くの研究者と非常に濃密な関係を築くことが可能である。
筆者はエマルションの研究を行っている。エマルションはある流動性物質が他の流動性物質に分散した状態を示す。近年、マイクロ流体デバイスの発展により、液滴の多様な構造を均一に自己組織的に形成することが可能となった。特に筆者はコア部やシェル部に種々の機能性流体を用いることで、多種多様なWater-in-Oil-in-Waterエマルション液滴(マイクロカプセル)を作製し、その光学材料や微細構造形成材料、活性物質のキャリアとしての機能について研究を行っている。本国際会議では全方位レーザー発振が可能であるコレステリック液晶(CLC)マイクロカプセルの回転に関する研究についてポスター発表を行った。
CLCは分子配向方向にねじれを有し、らせん周期構造を形成するため、特定の波長域の光を反射する。そのため、蛍光色素とCLCを組み合わせたレーザー発振の研究が盛んに行われてきた。また、従来CLCは二次元平面状で用いられてきた。しかし、CLC液滴の三次元全方位レーザー発振の報告以降、曲面状のCLCにも注目が集まっている。筆者は液滴同様、全方位レーザー発振が可能であるCLCマイクロカプセルから放出されるレーザーの位相制御を最終目的とし、レーザー位相に密に関係のあるカプセル表面の液晶分子の向き制御を目指した。カプセル表面の液晶分子を間接的に回転させるため、CLCマイクロカプセル全体の回転を行った。CLCマイクロカプセルのシェル部に磁性ナノ粒子(MNP)を添加すると、MNPは自己組織的に棒状凝集体を形成し、均一磁場にCLCマイクロカプセルを静置すると、棒状凝集体が磁場方向に平行になるように動こうとする力が CLCマイクロカプセルに働きCLCマイクロカプセル全体が回転する。光学デバイスとしてのCLCマイクロカプセルの光学特性及び液晶分子配向について多くの議論を行った。
これまでも国際会議に参加した経験は数度あったが、今回ほど日本人の少ない国際学会は初めての経験であった。どうしても日本人がある程度の人数を超えると、日本人同士が固まってしまい、多少の国際交流はできるが、日本人同士の議論も多くなってしまう。しかし今回は日本人も少なかったため、多くのヨーロッパの研究者たちとディスカッションすることができた。また日頃接する機会の少ない分野の研究者が非常に多く参加しており、私のポスター発表に非常に多くの研究者が訪問していただけました。私の研究はディスプレイが主な研究対象となる液晶をカプセル化しており、液晶の研究者にもあまり積極的にディスカッションをしていただけないことがあります。しかし、今回はそういった不安をよそに私の研究展開のためになる多くのディスカッションができました。
さらに、後日連絡があったのですが、young researcher's awardという口頭発表、ポスター発表を含めた若手の全発表者の中から優秀な発表者に送られる賞を受賞することもでき、私にとって国際学会での受賞は初めての経験であり、英語の発表に対して自信を持てる思い出深い学会にもなりました。