学会会場からの風景
本会議は、放射線遮蔽国際会議(International Conference on Radiation Shielding)と米国原子力学会放射線防護遮蔽部会会合(Topical Meeting of the Radiation Protection & Shielding Division of the American Nuclear Society)が合同で開催されたものである。第1回の国際会議が1958年にイギリス・ケンブリッジで開催されて以来、13回目となる今回はフランス・パリのNovotel Paris Centre Tour Eiffelで開催された。
本会議では、原子力エネルギー利用、核燃料輸送・貯蔵、クリアランスと廃棄物管理、核融合炉、放射線利用に係る加速器施設に関する放射線遮蔽、安全・防護を対象とした設計コードや関連データの開発と応用、遮蔽実験研究、放射線計測技術開発及び放射線防護基準等といった、放射線利用に関する幅広い分野が議題となる。さらに福島第一原子力発電所の事故以降は、放射線の環境モニタリングや廃炉措置に向けた取り組み等といった、事故関連のセッションも設けられている。
本会議は、この分野における最大の国際会議と位置付けられており、世界約30ヵ国より、約300人の研究者が参加し、最前線で活躍している専門家による研究発表・議論を行われた。4日間にわたって開催され、129件の口頭発表と66件のポスター発表が行われた。
発表の様子
“Gamma-Ray Dose Measurement with Radio-Photoluminescence Glass Dosimeter in Mixed Radiation Field for BNCT”というテーマで口頭発表を行った。
近年、放射線を用いたがん治療法としてホウ素中性子捕捉療法(BNCT)が注目されている。この治療では安定した中性子場が必要であり、近年は病院に接地可能な小型加速器型中性子源の開発が進められている。治療室では、中性子と同時にガンマ線も放出され、治療時の患者の全身被曝線量管理のためにガンマ線の空間線量分布測定が必要となる。しかし、中性子とガンマ線の混在場では、計測器が双方に対して感度を持つため、ガンマ線のみを分離して測定することは困難である。そこで本研究では、混在場においてガンマ線の分離測定を実現する手法の開発を目的とし、ガラス線量計と鉛フィルターを組み合わせた測定手法を提案した。本手法は、鉛フィルターの厚さが適当であれば、中性子の線量は変わらず、ガンマ線量のみ減衰するという特性を利用したものである。裸のガラス線量計と鉛フィルターで覆われたガラス線量計を同時に照射し、両者の線量を差し引くことで中性子の影響を取り除き、ガンマ線の線量を評価することができる。
今回参加した学会では、本手法の実現を目指して実施してきた、ガラス線量計のガンマ線に対するエネルギー特性の基礎研究について発表を行った。特に、鉛フィルターを用いたガラス線量計での計測を行う際に重要となる、ガラス素子内での吸収線量の分布と低エネルギーの光子に対する感度の問題について議論を行った。
懇親会の様子
今回は英語での口頭発表ということで不安もあったが、しっかりと準備をして臨むことで、貴重な経験を得ることができた。日本語での発表とは違い、英語での議論は相手の意図していることを十分に汲み取ることができず、コミュニケーションを取るのに苦労する場面も多々あった。それでも学会の懇親会やコーヒーブレイクの場では、海外の研究者とも積極的に交流を深めることができた。特に、同じ分野を研究する専門家と直接議論する機会は貴重であり、自分の研究を進めるにあたって課題解決のヒントを得ることができた。また、自身の発表だけでなく、放射線利用に関する分野の最前線で活躍する研究者のプレゼンテーションを直接聞くことができたのは非常に有意義な時間であった。今回の学会を通して得られた経験を、今後の研究に活かしていきたい。
今回の国際会議の開催地となったパリは「花の都」として知られており、エッフェル塔や凱旋門、ノートルダム大聖堂といった世界的にも有名な観光地に囲まれた美しい街並みが広がっている。会議の合間には、そういった観光地を訪れることができ、フランスの文化を肌で感じることができた。学生でありながら国際会議に参加することで、世界で活躍する研究者たちと交流することができ、異文化に触れることで自身の視野を広げることができたことは、総じて大変貴重な経験であった。このような機会を与えていただいた一般財団法人丸文財団に、心より感謝申し上げます。