学会会場の様子
The 42nd Annual Conference of IEEE Industrial Electronics Society (IEEE IECON 2016) は IEEEに属する産業応用に関するソサイエティ Industrial Electronics Society (IES) の年次大会であり、きわめて大規模な国際会議である。特に、電気、制御、通信、電気機器、計算知能などの理論構築やそれらの産業応用にフォーカスしており、電気工学や通信工学の発展に大きく寄与してきた経緯がある。本会議には47カ国から約1,900件もの論文が投稿されており、世界各国における注目度の高さがうかがえる。Peer reviewの結果、1,352件の論文が採択され、これらの論文はSpecial session (65) および Technical session (34) で発表された。この他、Tutorial (15)、Stuent Forum、Industry Forum などの議論できる場に加えて、Welcome Reception や Banquet などの研究者同士が交流できる場も設けられた。*( )内はSession数
本会議は2016年10月24日のStudent Forumおよび Tutorialからスタートし、基礎的な内容から先進的な技術について丁寧な説明が受けられた。25日のOpen Ceremonyから本格的に会議が開催され、各SessionおよびPlenary lectureでは活発な議論が繰り広げられた。Plenary lectureでは3件の講演があり、Prof. Jerker DelsingによるInternet of Things (IoT) から生産自動化に向けた講演、Prof. Johann Walter Kolarによる非接触給電システムの性能限界と制約についての講演、Prof. Huijun Gaoによる産業機器にともなうネットワーク制御システムに関する講演があった。いずれも大変興味深い内容で多くの質疑があり、講演後にも質問に伺う参加者の列がみられた。
本会議の最終日である27日にはBanquetが開催され、1,000人を超える参加者が一堂に会して歓談しながら交流を深める機会が設けられた。この他、功労賞や発表賞などが授与され、和やかな雰囲気の中、本会議は閉幕した。
本会議では「ワイヤレス電力伝送システムにおける伝送効率の最大化手法」について発表した。ワイヤレス電力伝送とは、送電側から受電側にケーブルなどの接触部を持たずに給電する技術であり、電気自動車(EV)や電子機器(スマートフォンなど)の充電に応用が期待されている。
本研究ではEVの走行中ワイヤレス給電(走りながらの充電)に着目しており、ガソリン車には真似できない、EVならではの充電方式を検討している。走行中ワイヤレス給電を実現するためには、インフラの導入コストを削減するために送電側となる地上設備をできる限り簡単化しなければならず、本研究では受電側であるEV側から取得可能な情報だけを用いて伝送効率を最大化できる手法を提案した。
本手法ではEV側における安定化制御に必要な電力変換器の動作に着目することで、従来不可能であった受電側からの2変数の同時推定法を提案した。これによって、伝送効率の最大化制御に必要な制御目標値を適切に導出し、シミュレーションと実験によって提案手法の有効性を示した。
発表後に、提案手法の有効性を示した実験結果について、「すべての実験条件において優れた効率改善効果がみられるが、これらの結果は正しいのか」というコメントをいただいたが、「今回提案した推定手法および目標値の導出が適切に行われた結果として、優れた効率改善効果が得られている。実際には推定誤差によって僅かに最大値から外れているが、ほぼ無視できる範囲である」と実験結果の有効性を主張した。
フィレンツェ
本会議は当然のことながら英語を公用語とする国際会議であるため、すべてのやりとりを英語で行わなければならないが、特に大きな不自由なく会議に参加できた点はよかったと思われる。このほか、会議の運営側にやや問題があり、質問や相談する機会が多かったように感じるが、このようなコミュニケーションをとることができたのも良い経験だったのではないか、と思っている。
本会議はきわめて大規模な国際会議であるため、これまで他の会議で会った研究者らとも再会でき、よい国際交流の場であった。また、これまでなかなか聴講できなかったProf. Johann Walter KolarのPlenary lectureがあったことは大変喜ばしいことで、興味深く聴講させていただいた。自分の研究分野を別の観点から、新しい切り口で研究していることは面白かったが、基礎的な内容を重点的に話していたため、最新の動向についてはあまりよく探れなかったように感じた。しかし、大変興味深い研究であるため、今後の動向については注意深く調査を行いたい。
私自身の発表では、国際会議での発表にだいぶ慣れてきて、自分のペースできちんと発表できたように思う。しかし、本会議はFirenze (Florence), Italyで開催されたこと(観光地であり、会議にあまり参加していない人も多い)、私が発表したSessionが最終日(27日)の午後であったこと(その夜にはBanquetもあり、集中できていない人もいただろう)、などもあって、活発な議論とまではいかなかったように感じた。
会議全体を通して、Programが上手にまとめられていなかったり、Proceedingsが上手くダウンロードできなかったりするなどの不都合な点が多く、これまでの国際会議とは違う大変さがあったが、ある意味では一つの経験としてよかったのではないだろうか。