図1. ICBMEの案内
International Conference of Biomedical Engineering (ICBME)は、医用生体工学に関する研究や開発に従事する個人や組織が知識や情報を共有し、互いに協力して、アジア地域における医用生体工学の発展および臨床に関する問題を解決していくことを目的として開催されている国際会議である。本会議は3年毎にシンガポールで実施されており、アジア地域における医用生体工学の学会では最大の規模であると言われている。前回の第15回大会(2013年)においては、約40カ国から600名以上の参加者があったとの報告がなされている。
第16回大会(図1)は、2016年12月7日(水)~10日(土)の期間、シンガポールのStephen Riady Centreにおいて、the Faculty of Engineering of the National University of Singaporeおよびthe Biomedical Engineering Society (Singapore)との共同で開催された。本大会では、25カ国から370件以上の演題発表があり、6つの会場ならびにポスター会場にて、基調講演や一般発表などが行われた。会議には、大学や企業の研究者だけではなく、医師やセラピストなど多くの職種からの参加があり、また研究発表の分野や内容においては、義肢、手術用のデバイスやシステム、イメージング手法、ウェアラブル医療器など多岐にわたっていた。基調講演では、アメリカ合衆国やヨーロッパ、アジア各国から著名な研究者が招待され、医用生体工学のこれまでの研究過程や、最新の研究内容、今後の歩みなどについて、非常に興味深い発表がなされた。
自閉症は発達障がいの一種であり、近年の研究において、乳幼児にヒトの顔を見せた場合、定型乳幼児はヒトの眼を見る傾向があるのに対し、自閉症乳幼児は口の動きなど注意を引くものを見る傾向にあるという知見がある。そこで本研究では、これまでに我々が開発してきた瞳孔や注視点の検出技術を応用し、母親や近親者のカラーカメラ画像を乳幼児に見せながら乳幼児の注視点を検出できる、非接触かつ頭部運動を許容する自閉症診断支援装置の開発を試みた。本装置では、ステレオカメラによって母親の3次元瞳孔位置を検出し、これをカラーカメラ動画像に投影することで、動画像中の母親の瞳孔座標をリアルタイムで検出し、瞳孔座標を基に眼領域と口領域をそれぞれ設定する。乳幼児がその領域を見ている割合や、注視位置と眼領域、口領域との距離などを算出することができるため、定型乳幼児と自閉症乳幼児の違いを検出できると考えられる。
実験では、被験者として大学生男子を乳幼児役と母親役とした。本装置で検出された注視点と視標(母親役の瞳孔)との平均誤差は約5 mmであり、眼もしくは口を注視させたときに、99%以上はその領域を注視していると正しく判断できた。質疑では、主に実験内容についての言及が多く、例えば、大学生男子を被験者としているが、実際に乳幼児を被験者とした場合、異なった結果になるのではないかとの指摘があった。しかし、本研究では装置の基礎的な機能の開発が主目的であり、カラーカメラ動画像中の眼、口領域のリアルタイム検出や、各領域のどちらを見ているかの判別が精度良く可能であったことを強調し、乳幼児を被験者とした実験は今後の課題であることを説明した。
図2. 学会会場の様子
The 16th International Conference on Biomedical Engineeringでは、最新の医用生体工学に関する研究が数多く発表された。中でも特に印象に残ったのは、小型の電気回路を患者の生体内に埋め込み、生体の調整を行うデバイスに関する基調講演であった。ヒトの臓器は常に伸縮しているため、回路そのものも柔軟に伸縮することが可能となっており、基板の素材や回路パターンの設計に関するアイデアに驚かされた。また、これまで国内外のヒューマンインタラクションに関する研究を調査した中で、健常者に使用される機器としては、非接触型のデバイスが一般的であると感じていたが、医療や治療を目的とした場合、侵襲的なデバイスも重要であることや、生体内に挿入するデバイスの研究も多く行われていることを知り、同分野に関する視野を広げることができた。
図2に、本大会で申請者が発表を行った会場の様子を示す。20名程度の聴講者は、真剣な表情で申請者の研究内容を聞いており、本発表内容の重要性を改めて意識することができた。また、本大会において、国際会議では初めてのセッションの座長を担当した。本セッション「Telemedicine & Healthcare」では、座長が質問をする必要がない程、活発な質疑応答が行われ、医用生体工学の研究に携わる研究者の熱心さや大きな意欲を感じることができた。本会議への参加は、今後研究を継続する上での大きな励みになった。