学会会場のSORIA MORIAホテル
Norby 教授による Opening Remarks
SSPC (International Conference on Solid State Protonic Conductors) は世界中から固体中のプロトン伝導を専門としている研究者が一堂に会して行われる学会である。18 回目を迎えた今回の SSPC では、アジアやヨーロッパ、南北アメリカなど様々な国の研究者が集い、口頭およびポスター発表者の合計は 100 名を超えた。多くの発表者がいるにもかかわらず、SSPC では他の学会と異なり、口頭発表が一つの会場で一つずつ行われるため全ての発表を聴講することができる。発表者の中には Klaus-Dieter Kreuer 教授 (ドイツ) や Truls Eivind Norby 教授 (ノルウェー) などプロトン伝導体の大家とも呼ぶべき研究者たちも含まれ、非常に専門性の高い発表・議論が行われた。また上記の両氏は、18 回目を迎えた今回の SSPC をもって SSPC International Advisory Board から引退することが決定しており、これまでのプロトン伝導体研究の歴史を振り返る総括的な発表なども行っていた。今回の SSPC では、副題として固体中のヒドリド (H-) 伝導を挙げており、プロトン (H+) 伝導体に固執せず新たな伝導体の開拓にも積極的な姿勢を見せていた。
口頭発表の様子
私の発表題目は “Electrical Conductivities and Cathode Performances of Lanthanum Nickelates, Lan+1NinO3n+1” であり、プロトン伝導性固体酸化物燃料電池のカソード材料の物性評価結果を発表した。La-Ni-O 系に属する酸化物群である LaNiO3, La4Ni3O10, La3Ni2O7 はカソード材料として高い性能を有することが既に報告されているが、それらの電子伝導率や酸化物イオン伝導率などの基礎物性が未だ報告されていない。その理由は、導電特性評価に必要不可欠である各化合物の緻密体の作成が難しいからである。本研究では、通常の焼結による緻密化とは異なり、緻密な前駆体を作成した後に高酸素分圧化で酸化することにより上記の酸化物群の単相の緻密体を作成した。
作成した緻密体を用いて各酸化物の導電率 (電子伝導率に相当) を測定した結果、上記の三つの酸化物の導電率は代表的なカソード材料に匹敵することが判明した。特に LaNiO3 の導電率はカソード材料の中でもトップクラスであった。LaNiO3 をカソードとした燃料電池セルを作成し過電圧測定を行った結果、LaNiO3 のカソード過電圧は代表的なカソード材料である LSCF と同程度である可能性を示した。
今回の SSPC はヒドリド伝導を副題に掲げていたこともあり、他の学会ではあまり聴講できないヒドリド伝導体の発表も多く聞くことができた。ポスターセッションでは多くの外国人研究者と一対一で議論する機会を得られたこともあり、貴重な英語での討論の機会も得られた。また、ホテルの食堂での夕食では、国内外の研究者と会話しながら食事する機会が得られ非常に有意義であった。
私の発表は口頭発表であり、多くの研究者に聴講していただくことができた。それに対する質問として、これまで知らなかった論文を紹介していただけたり、発表後には他の研究機関の先生からお褒めの言葉もいただけた。さらに、本研究の次の段階として酸素透過測定によるLaNiO3 の酸素拡散係数の評価を、共同研究として行わないかと他国の研究者から提案いただけるなど非常に意義のある発表となった。
最後に、SSPC に参加するにあたり多大な御支援をいただいた丸文財団に深く感謝申し上げます。