本会議の受付の様子
“66th Annual Meeting of the International Society of Electrochemistry”(以下、本会議)は、国際電気化学会 “International Society of Electrochemistry (ISE)” が年に一度開催する国際会議であり、今回が66回目に当たる。本会議はその名の通り、世界中の電気化学に携わる方々が一堂に会する大イベントである。本会議では、“Green Electrochemistry for Tomorrow's Society” をテーマに掲げ、電気化学の分野を細分化した計18のシンポジウムを設けて口頭・ポスター発表が募集されていた。本会議の講演プログラムには、これらの一般募集の発表のほか、plenary lecture、受賞講演、招待講演が組み込まれていた。また、ポスター会場の中には企業の展示ブースも設けられており、電気化学に関連する方々の活発な交流が行われた。講演の総数は、1,100件(口頭発表 約500件、ポスター発表 約600件)を有に超えており、特に二次電池・燃料電池・キャパシタの研究に関する発表が多く、今後の社会の発展を担う電気化学分野の責任の重さを再認識する結果となっていた。
今回、本会議が開催された場所は、台北国際会議中心“Taipei International Conventional Center”(台北市、台湾)であり、第62回大会(新潟、日本)以来4年振りの東南アジアでの開催となった。そのため、開催地域である台湾からの参加者を除けば、日本・中国(大陸)・韓国からの参加が多数ではあったが、計45の国からの研究者が本会議に集っていたため、全体を通して大変国際色豊かな会議であった。現地の気候は22-31 ℃程であり、10月開催とはいっても秋の訪れを感じさせず、本会議の活発な討論を反映したかのような温暖かつ居心地の良い天気が続いた。
私は、「イオン液体の電気化学」に関する研究を進めており、特に近年では、「フラーレン薄膜のイオン液体中における多段階電子移動反応の制御」を行っている。フラーレンは、カーボンナノチューブやグラフェンなどの炭素ナノ材料と比較して、電気伝導率や分解温度などの点で劣るものの、一分子として精製可能である点が優れている。そのため、精密なナノ界面の構築が要求される単分子電子デバイスへ適用可能な炭素ナノ材料として、フラーレンは期待されている。また、フラーレンは高い電子受容能力を有し、極低温の有機溶媒中にて6段階のレドックス反応を示すことが知られている。この多段階電子移動反応を安定かつより高温にて発現することができれば、有機二次電池の活物質としてフラーレンを使用する応用展開も可能となる。その他、フラーレンの電子状態の制御は、超伝導材料においても重要な役割を果たしている。このように多数の分野へ応用が期待されるフラーレンの多段階電子移動反応を制御するための基盤研究として、私はフラーレン薄膜のイオン液体中における電気化学測定を進めてきた。イオン液体は、溶融塩(融点100 ℃以下)であり、一般的に高い熱的安定性や難揮発性、広い電位窓などの特徴を持つ。溶融塩を構成するカチオンとアニオンの組み合わせを変えることでイオン液体の物性を変化させることが可能ではあるが、フラーレン薄膜の多段階電子移動反応の制御にはイオン液体のどのような物性が関わっているのか不明であった。そこで私の研究では、フラーレン薄膜の多段階電子移動反応のカチオン依存性を検討した。
受領・参加者本人とそのポスター
今回の私の口頭発表において、フラーレン薄膜の6段階電子移動反応を発現させるためにはammoniumやpyrrolidiniumのようなよりネガティブな電位でも安定なカチオンを有するイオン液体を電解質溶液として選択する必要があることに加え、フラーレンの各レドックス電位間の平均電位差がカチオンの体積の影響を受けることを重点的に説明した。発表の最後には、「イオン液体のカチオンに依存したボルタモグラムの違いの原因はどこにあるのか?」および「フラーレン薄膜のボルタモグラムは、フラーレンの積層した量に依存するのか?」といったご質問をいただき、活発に議論することを通して本研究に関するフィードバックを得た。
本会議に参加したことで、自身の研究分野やその周辺領域に関する情報収集をできただけではなく、多くの参加者とも交流を深めることができた。特に、普段論文などでしかお目にかかることのできない著名な海外の研究者の方々へ自分から積極的に声をかけ、名刺をいただくことができた時は、非常に感慨深かった。
他の研究者の方々の発表を聴講した中では、白金単結晶上におけるイオン液体のボルタモグラムを調査した研究やイオン液体のカチオンの官能基を変化させることによる粘性・電気伝導率の変化を調べた研究などが印象に残った。これらの成果は、我々の研究へすぐに応用可能であるため、新しい研究アイデアを創出する上で大変役に立つ内容を聴講できた点はとても良かったと感じている。
私の英語力に関してはまだまだ向上させるべきであるが、自分の口頭発表が終わった際に、司会者の先生から “Clear voice!” と賞賛を受けたことは大変嬉しく、数十回の発表練習の苦労が報われる思いをした。私は国際学会にて、これまで3回の口頭発表を経験しているが、回を重ねるごとに海外の研究者との交流が容易になり、より深い議論が可能になってきていることを強く実感した。相手に自分の意思をより的確に伝え、相手の意図をより詳細に理解するために、これからも研究の合間にしっかりと英語を勉強していきたい。
研究以外においては、本会議のイベントで台湾オペラ(歌仔劇)を鑑賞する機会があった。豪華な衣装を纏った役者の方々が歌ったり、踊ったり、剣を用いた演舞を行ったりし、非常に見応えのある劇であった。現地の文化を知る意味でも有意義な時間を過ごすことができた。
以上のように、本会議への参加は私にとって大変貴重な経験となりました。最後になりましたが、本会議参加に際して多大なるご支援を賜りました丸文財団の皆様に心より感謝を申し上げます。