会場の外観
本学会はIUMRSが主催する国際学会である。IUMRSは1991年に設立された材料研究組織であり、材料に関する学会や雑誌を広く手掛けている。その中でも本学会はIUMRSが年に2回開催する重要な学会である。第14回目にあたる今回の学会は韓国の済州島で2015年10月25日から5日間にわたって開催された。セッションは大きく10に大別され、今回はその中の『Energy and Environmental Materials』の分野に参加した。
Tm3+とYb3+を共添加した蛍光体は、Yb3+の4f殻内遷移による波長980 nmへのDown-Conversion (DC)機能を有するため、Si太陽電池のエネルギー変換効率向上のための波長変換材料として注目されている。しかしながら、Tm3+が太陽光を効率良く吸収できないため、実用化には至っていない。そこで我々は、紫外域に高い吸収率を持つZnOを母体とした、Tm,Yb共添加ZnOに注目し、ZnO母体からTm3+へのエネルギー輸送を利用した、高効率な波長変換材料を目指している。本研究ではその第一段階としてTmを単独添加したZnOの作製および、発光特性評価を行った。
Tm添加ZnO試料はスパッタリング併用MOCVD法により、Al2O3 (0001)基板上に作製した。ZnO母体はジエチルジンク原料とO2ガスを用いてMOCVD法により成長し、同時に基板上部でTm2O3ターゲットをスパッタリングすることでTmを添加した。成膜後、O2雰囲気下、600℃で30分間熱処理を行った。
Nd:YAGレーザー(λ = 266 nm)を励起光源として室温でPL測定を行ったところ、波長795 nmにTm3+の1G4 - 3H5、もしくは3H4 - 3H6に起因した発光を観測した。266 nmの励起源ではTm3+を直接励起できないため、Tm3+はZnO母体からのエネルギー輸送によって間接励起されていることが分かった。次に、低温でより詳細にPLスペクトルを観測したところ、波長489 nmに新たにTm3+の1G4 - 3H6に起因した発光が明瞭に観測され、Tm3+の1G4準位の励起が確認された。DC機構の実現にはTm3+の1G4準位への励起が必要であるため、今回の実験結果はTm,Yb共添加ZnOによる新たなDC材料の実現の可能性を示唆している。
質疑応答では、添加されたTm原子のうち、どの程度がTm3+として存在しているのかを質問された。今回の報告内容ではTm3+の1G4 - 3H6に起因した489 nmの発光強度は微弱であったが、その原因として添加されたTm原子がTm2+として機能していることが考えられる。Tmイオンの価数はXANES測定によって測定することができる。したがって、今後はSpring8の大型ビームラインを借りてXANES測定を行なうことを検討している。
口頭発表の様子
今回の国際学会では、27日にPhotovoltaicのセッションで15分間の口頭発表を行った他、同Photovoltaicセッションや酸化物薄膜材料のセッションを中心に研究発表を拝聴し、知見を広めることができた。自分の専攻分野ですら、英語で早口に話されると満足に理解できず、自分の英語力の未熟さを思い知らされた。一方で、ポスターセッションでは自分のペースに合わせて質問ができるため、興味のあるポスターは立ち寄ってじっくり話を聞くことができた。やはりここでも適切な英語がすぐに思い浮かばずにやり取りに苦労することが多かった。しかし、時間をかければ言いたい内容をきちんと伝えることができたので、そのことは自信に繋がった。