ECOSS(European conference on surface science)は毎年ヨーロッパの都市で開催される、表面科学についての国際会議である。今回のECOSS31はスペインのバルセロナで開催され、海岸から程近い”Centre de Convencions Internacional de Barcelona”という国際会議場が会場として使用された。会議名から察することができるようにこの会議には基本的にはヨーロッパ諸国からの参加者が多いものの、日本や中国、アメリカなど世界中の表面科学の研究者が参加していた。
ECOSS31では表面物性はもちろん、固液界面や分子吸着、触媒、グラフェンといった分野の発表が行われ、303件のポスター発表と29件の招待講演を含む309件の口頭発表、5件のプレナリー講演が行われた。
ポスターの前で
私の研究テーマはトランジスタのチャネル材料として期待されている二層グラフェンについてである。二層グラフェンは電場印加によってバンドギャップを制御できるため、バンドギャップを持たないという単層グラフェンの弱点を克服しうる材料として期待されている。しかし、二層グラフェンを用いた電界効果トランジスタでは、キャリアの注入と電場印加に対する誘電応答やバンド構造の変化によって二層グラフェンの電子状態が決定されるが、これらが量子キャパシタンスに与える影響を分離して測定することは難しい。そこで、私の研究では第一原理計算によって二層グラフェンの誘電物性について計算した。また、電場印加と電荷注入がなされた状態の二層グラフェンについて電子状態計算を行い、量子キャパシタンス測定に与える影響を評価した。
今回の私のポスター発表では、計算に用いた有効遮蔽媒質法の条件設定や、二層グラフェンのキャパシタンスについて突っ込んだ議論することができた。分極の測定を行っている研究者から誘電率やキャパシタンスが依存性を持つ物理的起源について質問をいただき、活発に議論することができた。
今回の会議ではグラフェン関連の講演が多数あったが、中でもクリセン誘導体からグラフェンナノリボンを合成する手法が興味深かった。また、触媒表面の活性サイトを直接観察した研究も印象的だった。これらのレベルの高い講演を聞くことができ、刺激的だった。
また、窒化ガリウムの極性に関するポスター発表を見に行き、気になることを質問したところ、「私のトピックに興味があるなら」とポスターの内容がまとめられた論文を手渡された。このようなことは初めてで、嬉しい出来事だった。これ以外にもポスター発表では何人かと討論できたが、自分の英語の表現力に至らない点がある場面があったのでこれからも英語に関しては努力していこうと思った。
自分のポスターについての討論は、多くの人に興味を持ってもらい、また、助言をいただくことができた。これらは、発表内容を今後論文としてまとめるにあたって大変参考になり、またモチベーションが高まったので、参加してよかったと強く思った。
研究以外の交流では、オランダの大学院生たちと昼食を共にしたことが印象に残った。会話の中で、「日本にはサムライがまだいるのか」「サムライは尊敬されているのか」と聞かれて驚いてしまった。
以上のように、今回のECOSS31への参加は私にとって大変貴重な経験となりました。最後になりましたが、ECOSS31参加に際して多大なるご支援を賜りました貴財団に心より感謝申し上げます。