Plenary Session会場
国際熱電学会 (ICT;International Conference on Thermoelectrics) は最先端の熱電変換技術を研究する世界中の研究者が一同に会する会議である。今回はドイツ・ドレスデンで現地の6月28日から7月2日まで5日間にわたり開催された。
報告された材料系の中でも聴衆の注目を最も集めたのは、テトラヘドライトCu12Sb4S13という硫化鉱物である。この材料は、Pbフリーの熱電材料の中で高い熱電性能を示すことが2013年に末國らによって報告されている。ICTでは、このテトラヘドライトの熱電性能をさらに向上させるため、様々な元素で置換したテトラヘドライトの熱電物性について報告がなされた。熱電発電の応用に向け、安価で環境負荷の少ない高性能熱電材料の研究が活発化しており、その中でも硫化物は非常に有望な材料系であることが実感できた。
実験とシミュレーションの双方を駆使して、材料の熱電物性を解明、報告する研究者が多くみられた。今後のマテリアルデザインの手法の一つとして、計算科学が有望であることを実感した。
ポスター講演の様子
私は“Electronic properties and first-principles calculation of transition metal sulfides Ni1-xFexSbS” という題目で発表を行った。近年、熱電発電への応用に向け、希少元素Te(テルル)を含まない環境調和型高性能熱電材料の開発が求められている。私たちは、Teの代替元素として同じ16族である硫黄Sに注目し、Sで構成される硫化物の熱電物性について研究を行っている。
私は、実験と第一原理電子状態計算の両面から、Feで置換した遷移金属硫化物ウルマナイトNi1-xFexSbSの熱電物性の解明を行った。NiサイトをFeで置換することで、遷移金属(Ni, Fe)の3dと硫黄の3pの混成軌道が増強される可能性を示した。
ICTでは、ウルマナイトおよびその置換系についての報告は本発表1件のみであったため、ウルマナイトの熱電物性の特徴を説明することが主であった。ウルマナイトおよびその置換系の熱電能 S は、低温で正の値を示し、温度上昇に伴い符号が負に転じる温度依存性を示す。低温における正の寄与がフォノンドラッグよるものなのか、という質問を受けた。低温における正の S の寄与は、 Niサイトの欠陥により生じた過剰な正孔によるものであることが計算から示唆されており、その旨を説明した。このような専門的な議論を他にも何件かできたので、それらを今後の研究に反映させることを予定している。
講演会場の様子
ICTでは、熱電に関する各国の最先端の研究内容が発表されており、当該分野の世界水準を肌で感じる絶好の機会であり、研究に対する非常によいモチベーションとなった。また、各国の研究者と議論する上で、英語によるコミュニケーション能力の重要性を改めて実感した。5日間という短い期間ではあったが、各国の研究者と意見交換を交わし、世界から見た自分の研究の位置づけと有意性について、認識を深めることができた。
今回のICTの参加・発表という貴重な機会に多大なご支援をいただいた丸文財団に心より感謝申し上げます。