The 2015 International Chemical Congress of Pacific Basin Societies(環太平洋国際化学会議、Pacifichem 2015)は、日本、アメリカ、カナダ、ニュージーランド、オーストラリア、韓国、中国の7つの化学会が主催する、太平洋沿岸諸国の化学者が集結する国際会議です。1984年の設立から5年に1度アメリカ・ハワイ州ワイキキで開催され、今回は7回目の開催です。分析化学、無機化学、有機化学、物理化学、生物化学などその発表分野は多岐にわたり、発表数は15,000件以上、全部で7つの会場で行われ、世界最大規模の化学による研究集会となっています。
発表の様子
“Luminous Reaction Analysis of Firefly Luciferin Analogs”という内容で口頭発表を行いました。 近年マウス等を用いる個体レベルのin vivoイメージングでは、PETやX線、MRI等の大型装置を必要とするイメージング法に比べ、簡素な装置、設備で測定できる光イメージング法が急速に普及しています。また光イメージング法においても、蛍光タンパク質や蛍光色素等を用いる蛍光イメージング法と比べ、生物発光を用いる生物発光イメージング法は深部観察が可能であるなど多くの利点を持っています。
我々の研究チームでは生体透過性の高い近赤外で発光するホタル生物発光材料「アカルミネ」を世界に先駆けて開発しました。近赤外光は生体組織(肉、血液)による強い光吸収および散乱を低減できることから、開発したアカルミネは緑色で発光するD-ルシフェリンより高精細な深部観察が可能となっています。また、より溶解性を向上させた「トケオニ」も開発し、2016年に市販されることになっています。
今回の発表では、アカルミネの発光強度の改善点を調べるために行った発光反応解析について報告しました。発光反応は化学反応であるため、化学反応速度と光変換効率である発光量子収率の積によって発光強度が決まります。アカルミネはD-ルシフェリンより発光反応速度で1/2、発光量子収率で1/10でした。また、発光量子収率の1成分である蛍光量子収率も1/10と低いことがわかりました。従って、発光強度を改善させるためには、この蛍光量子収率を向上させる必要があることがわかりました。
今回参加したセッションは、Luciferase-Luciferin Engineeringというかなりニッチなセッションでした。参加人数は40名程度と少人数でしたが、そのためか非常に面白く中身の濃い議論ができました。多くの方から貴重なご意見をいただきましたが、中でもマサチューセッツ医科大のStephen C. Miller教授からは開発した材料の問題点と改善点について、カリフォルニア大リバーサイド校のMichael C. Pirrung教授からは、新しい発光材料開発のヒントをいただきました。研究室に持ち帰り、早速研究を行っています。
また、英語による口頭発表は初めてだったため非常に緊張しました。もう少し英語のスキルを高め、質疑応答も十分こなせるよう精進したいと考えています。
最後に、本会議の参加にあたり、支援いただきました貴財団に心より感謝申し上げます。