学会会場のICMセンター
Conference on Lasers and Electro-Optics/Europe and the European Quantum Electronics Conference 2015(CLEO/Europe-EQEC2015)は隔年で開催され、レーザーならびにその応用分野に関する大規模な国際会議である。本年は5日間にわたりドイツのミュンヘンにあるICMセンターで開催され、口頭発表・ポスター発表合わせて約1,100件の講演が分野ごとに14のセッションに分けられて行われた。中でもファイバレーザーのセッションは最も講演件数が多く、70件の口頭発表、49件のポスター発表が行われた。講演の内容については高出力ファイバレーザーや超短パルスファイバレーザーに関する報告に加えて、中赤外領域で発振可能なファイバレーザーに関する報告が集中していた。
展示会の様子
また、本国際会議はCLEO/Europe- EQEC 2015の他に6つの国際会議が併催されており、幅広い分野の研究者と議論を交わすことができる会議である。また、世界各国のレーザーならびに光学関連の製品を扱う企業が集う大規模な展示会も併設されていたため、海外企業の最新技術や世界のレーザー市場の動向を伺うことができた。
今回、“Development of high energy femtosecond fiber laser by all fiber coherent beam combining technology”という題でポスター発表を行った。私の研究は、従来の出力限界を超える高出力なパルスファイバレーザーの開発を目的としている。近年、炭素繊維強化プラスチックに代表される難加工材料の高精度なレーザー加工を実現するために、高出力なパルスファイバレーザーが求められている。しかし、従来の高出力化方式より得られるパルス光の強度には限界があるため、私は「コヒーレントビーム結合」と呼ばれる技術を用いた新たなファイバレーザーシステムを開発している。コヒーレントビーム結合とは単一のパルス光を複数の光路に分波し、各パルス光の強度を従来方式の出力限界まで増幅した後に、全てのパルス光の位相を揃えて再び出力を足し合わせる技術である。
発表の際には、位相制御の具体的な精度や出力の安定性、実際に得られるパルス強度について質問があった他、実用化に向けた今後の展望についてコメントを求められた。また、発表時間終了後も質問が相次ぎ、予定していた発表時間 (1時間) を30分延長して質問に対応するなど、多くの研究者から強い関心を寄せていただいた。
ポスター発表の様子
ファイバレーザーのコヒーレントビーム結合に関する講演は合計6件行われた。いずれの発表もファイバ型の光増幅媒質と空間光学系を組み合わせたものであり、合波パルスの強度に関する報告に加えて、外乱の影響を受けて変動する合波出力の安定化に関する報告が中心であった。本国際会議の講演を聴くことにより、我々が開発を進めている全ファイバ型のレーザーシステムにおいて優位な点は、合波出力の安定性であることを再認識できた。しかし、全ファイバ型の光学系は空間光学系と比較して高強度パルス光を伝搬することが困難であるため、現在の安定性を保った状態で高強度パルス光を伝搬可能な新たなレーザーシステムを開発することが今後の課題であることが明らかとなった。
Fraunhofer研究所のJ. Limpert氏がコヒーレントビーム結合の現状や今後の展望について語った招待講演では、約200名の聴講者で会場が埋め尽くされるなど、コヒーレントビーム結合がファイバレーザーの高出力化方式として世界的に注目されている技術であることを再認識でき、自身の研究に対するモチベーションの向上に繋がった。
上記のような有意義かつ貴重な経験となった今回の国際学会参加にあたり、多大なご支援をいただいた一般財団法人丸文財団に心より感謝申し上げます。