PACIFICHEM は世界の化学界における、5年に一度の大イベントとして、米国ハワイにて開催されます。私は現在博士課程1年ですが、開催タイミングが重なったことと、貴財団より助成金をいただいたことで、学生のうちに運良く参加することができました。最も大きな化学系学会の1つであり、今回は71カ国・地域から16,000人以上の化学者が集結しました。参加者の半分近くが日本人であり、日本人のハワイ好きを伺い知ることができました。道路やショッピングセンターなどでは、スーツ姿の日本人が大勢歩きまわっており、事情を知らない人が見ると異常な光景に見えたのではと思います。
PACFICHEMでは、日本化学会の年会とは異なり、多種多様で専門分野を絞ったシンポジウムがそれぞれ独立して開催されており、私はnitroxideのシンポジウムに参加しました。規模の大きな学会では、専門の近い方とディスカッションする機会に恵まれない場合もありますが、PACIFICHEMは専門的な議論を密に行うことのできる学会であると言えます。初めて英語で口頭発表を行う私にとって、適した場であったと思われます。
私は「Control of Phase Transition Behaviors of Nitroxide Radical Paramagnetic Liquid Crystals」という演題で発表を行いました。液晶は、結晶と液体の間に存在する中間相であり、液体的な動的特性と結晶的な分子配向性の2つの性質を併せ持つユニークな相です。中でも、私の研究対象である分子構造中にニトロキシドラジカルを有する常磁性液晶は、一般的な反磁性液晶とは異なり、磁性と液晶特有の性質を併せ持つため、これまでにない全く新しい機能性材料として注目されています。しかし、従来の常磁性液晶は、その液晶相温度域(約80度以上)が一因となり、基礎的な物性研究や材料への応用が困難とされてきました。
これまでの常磁性液晶設計の指針は、ニトロキシドラジカルの非常に高い活性を抑えるために、周囲を嵩高い置換基で保護しつつ、液晶相発現に必要な棒状な分子形状を付与するという、相反する条件を両立することが中心でした。今回、私は新しく分子構造の対称性と平面性に注目し、この2つのパラメータをフッ素置換基の導入によって調整することで、常磁性液晶の相転移挙動を制御可能であることを明らかにしました。
日本人の参加者が多いとはいえ、国際会議であるため発表・ディスカッション共にもちろん英語で行われます。最近は、日本語での口頭発表や日本語・英語のポスター発表には慣れてきていましたが、今回、私は初の英語での口頭発表を行い、これまでに得られなかった経験を得ることができました。発表内容自体は聴衆の興味を引くことができ、質問がいくつも挙がりました。このことで、自身の研究の方向性は間違っていないという自信を得ることができました。一方で、英語での発表となると全く勝手が違い、何度も練習を行い発表に臨みましたが、思っていたよりもたどたどしい発表になった上、英語力が足らず質問に上手く答えることができず、悔しい思いをしました。このことで、英語ができないだけで、様々なコミュニケーションや知を獲得する機会を逃してしまうことを強く認識しました。今後は英語力の向上を課題の1つとしてますます精進し、積極的に国際学会参加も含めた国際交流を行っていきたいと思います。