Graphene Weekは年に一度開催されるグラフェン基礎物性と関連デバイス応用に関する国際会議である。8回目を迎える今年はGothenburg (Sweden)にあるChalmers工科大学で開催された。
具体的な研究集会のトピックは以下の通りである。
これらのトピックに関して110件の口頭発表と400件以上のポスター発表が行われた。
“Landau-level spectroscopy of graphene by tunneling through ultrathin hexagonal boron nitride”というタイトルで20分(質疑含む)の口頭発表を行った。
グラフェンは相対論的粒子ディラックフェルミオンが伝導を担うことから、多彩な量子相を有する特異な量子ホール効果を示す。この量子ホール系のバルク状態を調べるには、トンネル電流を測定して直接的に状態密度を観測することが有効である。我々は、近年グラフェンの基板として注目されているhexagonal boron nitride(h-BN)をトンネルバリアとして用いることでこれに成功したので、今回のGraphene Week 2014で報告した。
具体的には、磁場下においてトンネルコンダクタンスの極大が観測され、ランダウレベルスペクトロスコピーの実現を確認した。トンネルスペクトロスコピーにはSTMが多く用いられるが、特殊な実験環境が要請される。一方本研究では、h-BNというグラフェンと同様の層状化合物を、劈開法により薄膜化しトンネルバリアとして用いるという独創的な手法を用いた。通常の電気伝導測定を行うだけで、トンネルスペクトロスコピーが可能な系を実現したと言える。また、得られた結果を解釈することで、量子ホール状態において、ランダウレベルの分裂やコンダクタンスの増大など、トンネル電流に異常が見られることを見出した。
質疑応答の時間には、高解像度なスペクトロスコピーが可能となった理由である、defect由来の状態密度のピーク構造に関する質問や、量子ホール状態にみられるトンネル電流異常の物理的起源に関する質問など、活発な議論が行われた。
現在、グラフェン物性研究に取り組むグループの多くは、グラフェンおよびその他の二次元物質(h-BN,MoS2,…)を用いた積層構造の作製とその物性評価に力を注いでいる。今回の私の発表は、正にそれに類する内容であったことから、多くの興味を集め、この領域をリードする欧米のグループに自分たちの存在をアピールすることができたと感じている。正規の質疑応答の時間以外にも、同様に層状物質間のトンネル測定を行っているヨーロッパのグループの研究者から質問を受け、ランチを食べながら、お互いの実験結果に関して情報交換をすることができ、非常に有意義な時間を過ごすことができた。
また、他の発表から学ぶことも多かった。他のグループの動向を知ることで、今後自分たちが進むべき方向性について考えることができたのは勿論、自分たちだけでは手を出すことのできない測定手法に関して、共同研究の提案をすることができ、今回の会議で得たことをこれからの自分の研究に生かしていこうと強く感じた一週間だったと言える。
末筆ながら、今回の国際会議参加にあたり、貴財団から多大な支援を頂きましたこと、心より感謝いたします。