HWCVD8は2014年10月13日から16日までドイツにて開催され、全世界16カ国以上から参加者が集まり、後述する成膜作製法に特化した会議である。本会議は触媒化学気相成長法(catalytic CVD:Cat-CVD)とそれに関連した高分子重合開始剤を用いたinitiated CVD(iCVD), 触媒化学気相成長法(O-Cat-CVD), プラズマアシストCat-CVD, ホットフィラメントCVD(HFCVD)などを用いたデバイスプロセス、コーティング、新材料生成に関する新たな知見や、省エネ、エネルギー産業、また有機LED、有機太陽電池、電子ペーパー、電子広告などフレキシブル、ウェアラブルデバイスなど幅広い分野に活用できる本手法の知識共有を目的として、隔年毎、世界各地で開催されている。
Cat-CVDは私どもの研究室で開発した新しい低温薄膜堆積技術であり、従来の原料ガスをプラズマ分解する「プラズマCVD法」とは違い、プラズマ中の荷電粒子が衝突して下地基板表面を損傷しないことや、原料ガスの分解効率の高さが優れていることもあり、現在、多種多様なデバイスへと応用されている。そのため、新たな知見や特性が多数議題に上り、魅力的かつ興味深い会議となっている。
第8回となる本会議の開催地は観光都市でありながら、自動車産業の拠点であり、学術研究により人口が増加し続けているドイツ中央部のブラウンシュバイクにて開催された。
現在、我々は太陽電池の研究を行っており、特に、アモルファスシリコン(a-Si)と結晶シリコン(c-Si)を組み合せることで、従来のc-Si単独な太陽電池よりも効率向上が図れ、かつ、c-Siの薄型化にも対応できることが見出されているHIT (Heterojunction with Intrinsic Thin layer)構造太陽電池に関する研究に携わっている。高いエネルギー変換効率をもつc-Si太陽電池は、さらなる高効率化や製作コスト削減のためにSi基板の厚みを200 µm以下とする、薄型化が要求されている。 しかし、 薄型化とすることによりSiウェハ表面の影響が増加し、変換効率の低下が起こってしまう。このSiウェハ表面の影響を抑えるためには、より質の高いSiウェハ表面の不活性化(パシベーション)技術が必要となる。
300℃以下の低温でパシベーション膜を形成するためには、従来は、原料ガスをプラズマ分解する「プラズマCVD法」が用いられてきたが、この方法では、下地基板表面をプラズマ中の荷電粒子が衝突して損傷する問題があった。そこで、我々はプラズマ損傷のないCat-CVD法を用いてc-Siのパシベーションを行い、そのパシベーション能力を調査している。実際、Cat-CVD法で作られたシリコン窒化(SiNx)膜とa-Si膜の積層膜を表面保護膜として用いると、キャリヤのc-Si表面での再結合を、世界最高レベルに抑制できることを見出している。今回の会議では、c-Si中で観察されるキャリヤ密度の測定から、そのa-Si中の光吸収の影響を調べたもので、a-Si膜厚が15ナノメートルの厚みまでは、a-Si中での光吸収により生成したキャリヤはc-Si中に輸送され、発電に寄与することを見出したもので、優れた表面保護膜の形成と、太陽電池材料としての特性が両立することを示し、本提案の保護膜の有用性を発表するとともに、他の太陽電池やCat-CVDの専門家から広く意見を募り、本手法での新たな知見を見出した。
海外の様々な研究者と話すことができ、特にHIT太陽電池の作製手法や問題点について大いに役立つ内容を聞くことができた。また、太陽電池のパシベーションを行なっているドイツのグループから、パシベーションの手法として太陽光の吸収のないSiOxを使用した場合との比較が議題にのぼり、界面再結合速度などの面で、本手法で作製されたSiNx/a-Si構造の優位性が大きいことを理解していただけた。
また会議の特性上、研究分野外の発表や討論も行われたため、より視野の広位観点からCat-CVDの特性を知ることができた。
以上のように大変有意義な議論を行えたことで筆者の研究が今後発展できるものと思われる。
これとは別に、ドイツ最大の応用研究機関フラウンホーファー研究所を訪問する機会を得られ、そこで使用されているCat-CVD機を見学することができた。予想以上に多用途に使用されており、本手法の重要性を垣間見ることができた。