発表会場の様子
Ultrafast Surface Dynamics (USD) は、主に固体表面においてフェムト秒オーダーで進行する超高速ダイナミクスに焦点を置いた国際会議であり、1997年以来2~3年おきに世界各地(ヨーロッパ、アメリカ、日本)で開催されている。第8回目にあたる今回は、アメリカ・コロラド州で開催され、100名前後の研究者が参加し、46件の口頭発表と33件のポスター発表が行われた。
会場であるEstes Park Centerは、ロッキー山脈に囲まれた自然豊かな宿泊地であり、市街地から離れ、参加者同士が議論や研究交流に集中するための環境が整えられていた。主な講演内容は、光電子放出・X線回折・電子回折・走査プローブ顕微鏡等を用いた分光法によるダイナミクスのエネルギー・時間分解測定を行った実験研究や、励起状態にある電子・振動・スピンの緩和等のダイナミクスに関する理論研究であった。私の研究と関連が強い、金属ナノ構造体におけるプラズモン励起や分子の光学特性に関する発表も数多く行われ、今後研究を進める上で有益な情報を得ることができた。
Effects of Exciton-Plasmon Coupling on Molecular and Plasmon Luminescence Induced by Scanning Tunneling Microscopyという題目で口頭発表を行った。電子励起された分子(分子励起子)と表面プラズモンが相互作用する際の発光は、プラズモンを利用した有機発光素子の高輝度化・低消費電力化といった観点から盛んに研究されている。近年では、プラズモンによる分子の発光強度増強といった、プラズモンが分子の光学特性に働きかける側面に加え、分子の発光や吸収といったダイナミクスがプラズモンの発光・吸収スペクトルに強い影響を及ぼすことが明らかにされつつある。これらの機構を微視的な立場から解明し、系の光学特性を系統的に理解するためには、分子・プラズモンの発光過程における両者のダイナミクスを、量子多体論に基づいて解析することが求められる。
本研究では、金属基板上の分子のSTM発光(走査トンネル顕微鏡(STM)のトンネル電流に誘起される発光現象)に着目し、探針と基板の間の空隙近傍に局在する表面プラズモンと分子のダイナミクスの絡み合いが、両者の発光特性に与える影響を調べた。その結果、プラズモンの発光スペクトル内に、分子の発光・吸収に由来するピーク・ディップ構造が現れることに加え、分子を介したプラズモンのエネルギー吸収に由来する凹み構造が現れることを見出した。さらに分子およびプラズモンによる2つのエネルギー吸収過程が干渉し、干渉に由来する構造が現れることを見出した。
質疑応答の際には3名の研究者から質問を受けるとともに、発表後も数多くの研究者から声をかけられる等、研究成果に興味を持ってもらえたようであった。議論を通して、現在使用している計算モデルや計算手法の妥当性、および改善が必要な点について有用な知見を得ることができ、有意義であった。
固体表面での超高速ダイナミクスに関する著名な研究者の多くが集まった本会議では、全てのセッションで全員参加が促され、極めて濃厚な議論が行われていた。理論研究者の重鎮に当たるB. Gumhalter教授(クロアチア)の講演では、実験研究者の重鎮に当たるH. Petek教授(アメリカ)と共同で、超短パルスレーザーにより金属表面近傍に生成された励起子が、伝導電子に遮蔽されていく過程をフェムト秒の時間スケールで解析した結果を発表し、多くの研究者の興味を引いていた。
本会議の講演は午前8時半ごろから始まり、その後、午後8時からのポスターセッションでは11時過ぎまで多くの研究者が議論を続けていた。研究に対する熱気が満ちている雰囲気の中、多くの研究者と交流することができ、研究に関する知見や交流関係を格段に広げることができた。また彼らの研究に対する熱意に触発され、研究意欲がより一層高まった。特に、自分の専門分野と近い研究を行っている外国人研究者との交流を通して、彼らにも負けない研究成果を挙げたいと思った。次回は2016年に日本で開催される予定であり、機会があれば、是非とも参加したい。
上記の通り、本会議への参加は、私にとって非常に貴重な体験となった。
今回の渡航に際し、多大なご支援を賜りました貴財団に心より感謝申し上げます。