添付写真1:本会議に参加した筆者
添付写真2:本会議に参加した筆者
Laser Ceramics Symposium(以下、本会議)はレーザー媒質をはじめ、各種光学素子に応用することを目的とした透光性セラミックスを題材に取り扱った国際会議であり、2005年以降、毎年開催されている。
本会議の目的は、材料科学者や物理学者などに、セラミックスの作成方法から将来の応用まで、様々な透光性セラミックスに関する討論の場を提供し、これらの分野の進歩と研究の可能性を促進させることである。これまで、本会議はポーランド(2005)、日本(2006)、フランス(2007)、中国(2008)、スペイン(2009)、ドイツ(2010)、シンガポール(2011)、ロシア(2012)で開催され、今年は韓国のテジョンにあるHotel Riviera Yuseongにて開催された(添付写真1)。
本会議のプログラムは主に、招待講演や口頭発表、ポスター発表から成るが、今年は参加者同士の交流を深めるために、テジョンの市内観光ならびに、韓国電子通信研究院ETRI(Electronics and Telecommunications Research Institute)や国立大学であるKAIST(Korea Advanced Institute of Science and Technology)への見学ツアーが催された。また、バンケットでは韓国の伝統的な踊りであるBoochae-SanjoやSam-Go danceなどが披露された(添付写真2)。今年の発表者数は約70名であり、昨年の50名を大幅に上回った。今後ますますの発展が期待される。
本会議の次回開催は2014年12月1~5日にポーランドで予定されており、ホームページを通して参加者の募集が行われることになっている。
本会議では、透光性セラミックスを利用したレーザー媒質であるNd/Cr:YAGセラミックスのCr3+からNd3+へのエネルギーの移乗過程について報告を行った。
近年、太陽光をレーザー光へと変換する太陽光励起レーザーが注目されている。太陽光は地上に大量に降り注いでいるが、その波長・位相・方向はバラバラでありエネルギー密度が低い。反対に、レーザー光はそれらが揃っているため、太陽光をレーザー光に変換することにより、高密度のエネルギー源として利用することができる。太陽光励起レーザーでは、耐熱性に優れ、太陽光スペクトルと吸収スペクトルのマッチングが良いなどの条件からNd/Cr:YAG(Yttium Aluminium Garnet)セラミック媒質が使用されている。また、Cr3+で吸収されたエネルギーがNd3+へ移乗することによってレーザーの発振波長である1,064nmの発光量を増加させると考えられている。しかし、Cr3+からNd3+へのエネルギー移乗の過程については十分に理解されないまま、各研究機関はレーザーの発振実験を行っているのが現状であり、エネルギー移乗の過程解明が望まれている。
本研究成果よりCr3+からNd3+へのエネルギー移乗は、Cr3+の異なる3つの準位からNd3+へ移乗することを明らかにした。また、エネルギーの移乗効率は温度上昇に伴い増加することが判った。この結果より、Nd/Cr:YAGセラミックは高温でレーザー発振の効率向上が期待できる。
添付写真3:筆者(左)と
ロシアのR. N. Maksimov博士(右)
添付写真4:近畿大学の仲村さん(左)、筆者(中)、
シンガポールのJ. Wang博士(右)
質疑応答の際に、固体レーザー媒質におけるエネルギー移乗について精通している、ルーマニアのLupei教授より、私の研究報告に対する貴重なコメントを沢山いただいた。私の考え方とは違った視点からのコメントであり、Nd/Cr:YAGセラミックのエネルギー移乗に関して新たな見解を得ることができた。ヨーロッパで私と同じテーマの研究を行っている先生がいらっしゃることに大変驚いたと同時に、私の研究報告に熱心に耳を傾けてくださったことを、うれしく思った。今回いただいたコメントを活かし、エネルギー移乗の研究により一層励みたい。
また、本会議を通して、世界のセラミックスの研究者の方々と交流を深めることができた(添付写真3、写真4)。透光性セラミックスの議論だけではなく、各国の研究者と、私生活に関する話や各国の時事問題などについても話をする機会を多く得た。会議の人数が少人数だからこそ、参加者の方々と密に接することができたように思う。国際学会に参加することで得られた人脈の広がりは今後の研究活動の糧になると確信している。
最後に、筆者にとって本会議は初の海外への一人旅であり、さらに初の英語での口頭発表であった。本会議で得られた、海外渡航や研究報告の経験は、私にとって研究の視野を広げるだけではなく、人生における非常に大きな自信に繋がった。来年、12月にポーランドで開催される本会議にもぜひ参加し、研究や人生の経験を積み重ねていきたいと思う。
最後に、今回の国際学会に参加するためのご支援をいただいた一般財団法人丸文財団に心より感謝いたします。