国際交流助成受領者/国際会議参加レポート

令和元年度 国際交流助成受領者による国際会議参加レポート

受領・参加者名
尾崎 誠
(甲南大学 フロンティアサイエンス研究科 生命化学専攻)
会議名
26th American Peptide Symposium (26th APS)
期日
2019年6月22日~27日
開催地
Monterey, USA

1. 国際会議の概要

学会会場の外観

26th American Peptide Symposium (26th APS) は2019年6月22日から6月27日の6日間にわたり、アメリカ合衆国のモントレーで開催されたペプチド科学・工学分野の世界中の研究者が一堂に会する国際会議である。本国際会議はAmerican Peptide Societyが主催し、1968年にNew Heavenで初めて開催されて以来、2年に一度開催されている。今年は、ペプチド医薬、細胞膜透過性ペプチド(CPP)の開発といったバイオ分野からペプチドの自己組織化、ナノマテリアルへの応用といったナノ材料工学分野に関する16のセッションに分けられ、口頭発表が85件、ポスター発表が302件行われた。2018年にノーベル化学賞を受賞したFrances H. Arnold氏がopening speakerとして発表され、2日目以降では、Goodman Scientific Excellence & Mentorship Awardを受賞した、ペプチド性天然物の全合成、ペプチド固相合成の方法論を確立したFernando Albericio氏、Merrifield Awardを受賞したLila Gierasch氏といった著名な研究者による講演が行われた。また、今回から若手研究者対象のアワードであるThe APS Early Career Lectureshipも設立され、J. Raskatov氏が受賞し、講演も行われた。スポンサー企業の出展ブースではHPLCやペプチド自動合成機をはじめとした最新鋭の実験機器に関するデモや展示も見ることができた。

次回の27th American Peptide Symposiumは、2021年にカナダのウィスラーにて開催予定である。

2. 研究テーマと討論内容

“Shape and Elemental Composition Control for Synthesis of Gold-Titania Photocatalyst Using DNAs and Designed Peptides”という題目でポスター発表を行った。

ポスター発表の様子

本研究は、人工小型タンパク質(人工ペプチド)‐DNA複合体を用いて、未だ制御が難しい無機物沈殿の位置特異的沈殿制御を題材として、機能性の無機物ナノ構造体の作製を試みた研究である。当研究室ではこれまでに、シリカを特異的に集積できるような配列と、DNAと結合できる人工ペプチドPNA (Peptide nucleic acid) 配列を組み合わせたものを設計・合成し、本ペプチドをDNAに結合させた部位のみに位置特異的にシリカを形成させることに成功を収めている(Chem. Commun., 52, 4010-13 (2016). Nanoscale, 8, 17081-84 (2016).)。本研究では、金とチタニアを題材に、これまでに確立した位置特異的沈殿制御法を用いて、可視光励起性を有する金-チタニア複合光触媒の作製を試みた。添加条件、濃度条件、焼成条件などを検討した結果、可視光励起性を有する金-チタニア複合ナノ構造体の作製に成功した。また、DNA鎖長を変化させることにより、金-チタニア複合ナノ構造体の形状および金とチタニアの元素含有比を制御することにも成功した。本研究で確立した手法は、ペプチドとDNAを用いた、これまでにないナノレベルで二種の無機物の複雑な制御ができるミネラリゼーションの精密制御法である。本手法は新たな機能性ナノ材料開発アプローチとしてナノ回路やナノ合金、半導体性発光材料、センシング材料の作製などに適用でき、エレクトロニクス分野をはじめとして、環境分野、医療分野など幅広い分野への波及が期待できる。

3. 国際会議に出席した成果
(コミュニケーション・国際交流・感想)

私は2時間15分のポスターセッションにて研究発表を行い、国籍を問わず多くの研究者の方々とディスカッションが行えた。昨年度、アイルランドのダブリンで開催された35th European Peptide Symposium (35EPS) にてポスター発表をしていた経験もあり、審査員の先生方を含めた海外の研究者の質問に対して、自分の考えや意見を適切に説明することができた。今回の発表で多かったのが、ミネラリゼーションにより作製した無機物ナノ構造体を材料工学分野への応用ではなく、生体への応用はできるのかといった質問である。本発表の発展系で現在行っている細胞内での無機物のミネラリゼーションを紹介したところ、多くの方々が我々の研究に興味を持っていただいた。その際、フォトイムノセラピーを行っている方とディスカッションすることができ、細胞での応用の際に気を付けなければいけないことなどをディスカッションすることができ、自身の研究の課題点などを明確にすることができた。その他にも様々な質問があり、それらを通じて本研究を発展させるためのヒントを得ることができたので、高IFの雑誌への掲載に向けて研究に励んでいきたい。今回の国際会議では、細胞膜透過性ペプチド(CPP)を用いた薬物送達、アミロイドβペプチドの病理学的知見などに関する様々な分野の研究発表を拝聴した。また、アワードを受賞した著名な研究者、若手研究者の研究内容や研究経歴に関する講演を拝聴し、彼らの考えやペプチド科学の歴史を学ぶことができ、それぞれの研究分野でのトレンドについても知ることができた。ポスター発表後は、質問に来られた先生方と夕食をご一緒し、モントレー産のワインを飲みながら、先生方の昔話を聞かせていただいたり、将来のことなどをお話させていただいたり、非常に貴重な体験となった。

以上のように、今回の学会参加は、様々な交流、貴重な体験もでき、今後の私の研究の発展において重要な礎となる有意義なものとなりました。このような本国際会議への参加に際して多大なるご支援を賜りました丸文財団に心よりお礼申し上げます。

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