国際交流助成受領者/国際会議参加レポート

平成30年度 国際交流助成受領者による国際会議参加レポート

受領・参加者名
KANG BYUNG JUN
(神戸大学 工学研究科 電気電子専攻)
会議名
The 15th International Conference on Near-Field Optics, Nanophotonics & Related Techniques (NFO-15)
期日
2018年8月26日~31日
開催地
University of Technology of Troyes, France

1. 国際会議の概要

光を物質に照射したときに、物質表面から照射光の波長に比べ十分近い領域 (100nm以下、1nm=10-9m) に発生する電磁場のことを近接場光といい、この近接場光に関わる物理現象や化学現象、及びそのデバイス応用について取り扱う分野のことを近接場光学 (near-field optics) という。近接場光を用いた主なデバイスには、“走査型近接場光顕微鏡” がある。非常に細いプローブの先端に近接場光を生じさせ、プローブを走査しながら近接場光と物質の応答を調べることで物を見る顕微鏡である。従来の光学顕微鏡より極めて高い分解能 (~20nm) を示すことが特徴である。走査型近接場光顕微鏡の登場以来、従来では得られなかった新しい情報が次々と報告されている。

本会議は、上記で述べた近接場光学という新しい分野の登場と共に、その分野内の学術交流を目的とし、1992年から2年間隔で開かれる国際会議である。通常、near-field opticsを略してNFOと呼ばれており、今回をもって15回目になる。NFO国際会議では、近接場光学分野で世界をリードする研究者たちをはじめとし、それに関係ある様々な研究グループが集まって学術交流が行われる。日本でも近接場光学分野において世界をリードするいくつかの研究グループが有り、今日までNFO国際会議が2回も開かれた。研究テーマは、走査型近接場光顕微鏡を活用した基礎及び応用研究が主に報告されるが、金属及び誘電体のナノ構造体 (Metamaterials) に関する研究や、グラフェン等の2D Materialに関する研究も多数報告される。

NFO国際会議の特徴中の一つは、NFO-school programがあることである。NFO-school programでは、代表的なテーマの背景にある基礎物理を授業形式で受けることができる。著名な方々が、自分の単発的な研究進捗でなく、基礎物理を語ってくれるということで、私のようなPh.D学生にとっては非常に勉強になる。

2. 研究テーマと討論内容

研究題目は、“Fano resonances in near-field absorption in all-dielectric multilayer structures”である。Fano共鳴とは、ブロードなスペクトルを示す電磁波モードとシャープなスペクトルを示す電磁波モードの相互作用で生じ、左右非対称なスペクトルを示すことが特徴である。応用先としては、スペクトル線の急激な変化を活かした、光センサーや光スイッチデバイス等が挙げられる。従来のFano共鳴は、主に金属で構成されるナノ構造体で観測されていた。ところが、金属ナノ構造体では、金属ロスによりそのスペクトル幅が広く、非常に低いQ値を示すFano共鳴しか得られない (高々10程度) 。さらに、ナノ構造体を作製する際に用いられるナノ加工技術は、コストが高く、試料を精度よく作製することが困難であるといった課題がある。そこで、高感度なセンシングデバイスを実現するためには、線幅の狭い高いQ値を示すFano共鳴を、よりシンプルな構造で実現することが要求される。

本研究では、全誘電体 (all-dielectric) 多層膜構造を新たに提案し、高いQ値を示すFano共鳴の実現を目指した。本研究のポイントは二点である。i. ナノ加工技術を一切用いない多層膜構造でのFano共鳴であること。ii. 金属を全く用いないことにより、従来よりはるかに高いQ値が得られたことである。結果として、Fano共鳴分野では最大級である2,800というQ値が得られた。実際のポスター発表では、Fano共鳴の新たなメカニズムと、Fanoラインシェープの制御結果 (Q値の制御) について報告を行った。

3. 国際会議に出席した成果
(コミュニケーション・国際交流・感想)

1. コミュニケーション :
口頭発表ではなく、ポスター発表であったため、少人数の人たちとじっくりと話すことができた。ポスター発表の一番良いところは、時間制限なしで細かいデスカッションができることである。およそ9名の方とデスカッションし、様々な知見を得た。特に、分野の異なる人に対して、細かい背景や基礎知識から説明することは、自分にとっても非常に勉強になった。正確に答えられなかった部分については、学会から戻ってきてからフィードバックし、穴の開いている部分を埋め、自分の研究を固めた。

2. 国際交流 :
自分の研究の共同研究者の中に、Nesterenko Dmitryというロシアの方がいる。今までは指導先生を通して交流を重ねてきたが、今回のNFO-15で初めて直接交流することができた。毎日デスカッションし、自分の研究の次の展開について様々な意見を得たと共に、新しいアイデアも浮かんできたため、今回の交流が益々期待できる。また、論文を通して目にしていた様々な研究者たちの講演を聞き、講演が終わってから質疑することで著名な研究者たちと関係を高めた。

3. 感想 :
世界は広く、研究する人は多いということを感じた。今回、優れた研究、世界をリードする研究等、数多い研究を直接体験してから、「もっともっと頑張らないと研究の世界で生きていけないだろう」と、強い刺激を受けた。また、自分の研究のみならず、視野を広げて他の分野も理解し、自分の研究をより発展できるようにしようと思った。

本会議で発表した研究内容は、現在、英国物理学会 (The Institute of Physics) で出版しているJournal of opticsの査読を受け、出版準備の段階 (in press) に入っている。本会議を通して得た知見を参考にすることで、無事論文にすることができたと思われる。

  

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