国際交流助成受領者/国際会議参加レポート

令和5年度 国際交流助成受領者による国際共同研究レポート

受領・参加者名
Theodorus Jonathan WIJAYA
(東京大学 電気系工学専攻 染谷研究室)
研究テーマ
深部組織イメージング用の二次元材料インクによる超フレキシブル赤外光検出素子の開発
期日
2024年1月8日~3月25日
受入機関
米国カリフォルニア大学バークレー校 EECS専攻 Javey研究室

1. 国際共同研究の目的

本共同研究では、次の二点を目指していた
(1)新奇二次元材料インクによるフレキシブル赤外光検出素子の開発(図1左半分)
(2)深層学習による高解像度な皮下イメージングシステムの創出(図1右半分)

図1 研究計画の内容。課題1ではフレキシブル光検出素子に必要なハイブリッドインクを開発して、そのデバイスの実証。
課題2ではマトリックス化したデバイスを深部組織のイメージングに適用し、深層学習を通してイメージのパターン抽出できるシステムを開発。

今回の滞在では、課題1-1の立ち上げから課題1-2、2-1の一部を達成したが、フレキシブル化までは未だできていない。

2. 共同研究先での研究内容

【課題1-1】 黒リンをはじめ、赤外光(1000 - 4000nm)を吸収する無機二次元材料を大面積な光検出素子の活性層として作製するために、大面積(ピクセル>10×10mm2)プロセスに適応した形にする。本研究では、二次元材料を超音波処理によるピーリングを通じインク状にする。具体的に、黒リン(black phosphorus, BP)という中赤外光の吸収・発光材料を用いた。これとOleylamine (OA)などのポリマーと混合させる。OAとの混合を通じ、低シート抵抗、向上したフレキシブル性、大気安定性の効果が期待できる。インクの溶媒とOAの混合率を最適化する。

【課題1-2】垂直構造を用い、ガラス基板上のあと、フレキシブル基板上で作製し、フレキシブル性を実証する。フレキシブル基板の前に、硬いクォーツ基板上に“Au/ PEDOT:PSS/ BP:OA/ ZnO/ ITO”の構造を作る。先ず赤外光用の活性層インク(課題1-1で開発)はスピンコーティングで塗布する。今回の滞在では、スピンコーティングの条件を最適化し、均一性の高い黒リン層および各機能層を実現した。大面積化にあたり、アプリケーターでの塗布条件を設立する。デバイス性能をもとに、インクの溶媒の比率などを最適化する。

【課題2-1】課題1で作製した高感度な光検出素子をマトリックス化し、アレイの光電流でイメージングする。マトリックスは9×9の光検出素子、実効面積1×1cm2以上のセンサーを作る。今回の滞在期間では、クォーツ基板上でのみ実行できていなかった。

3. 国際共同研究の成果
(コミュニケーション・国際交流・感想)

【成果発表】
[1] T.J. Wijaya, H.M. Kim, S. Wang, N. Higashitarumizu, A. Javey, “High-Efficiency Ink-Based Mid-IR LEDs and Photodetectors,” Berkeley Sensor & Actuator Center (BSAC) 2024 Spring Conference, Berkeley, USA, (2023.3). (Poster)

【研究成果】黒リンによる中赤外フォトダイオードのプロセスを高いイールドのプロセスで実現した。所属の東京大学染谷研究室の有機デバイスの知見を活かして、図2aの縦構造デバイスに用いた各機能層を最適化し、フォトダイオードを作成していた。ダイオードの整流特性は図2bで示す。0Vで暗電流と光電流の差が確実に測定できたが、数十pAという小さい電流では高感度な光検出が困難だと分った。しかしながら、0Aで~10mV(図2c)程度の解放電圧の差が計測でき電圧による光分別が有望なことに気づき、今後は解放電圧による光検出に挑む。デバイスの光学スペクトルは図2dで示し、近赤外光から中赤外光(1–3µm)の光応答があると分った。最後に、デバイスのアレイ化に向けて、電極の配線(図2e)と初期段階の実装まで試したが、光検出素子同士におけるクロストークと光学的活性層の不均一性といった原因でアレイ化が未だ困難である。

図2 (a) デバイス構造の断面図。 (b) フォトダイオードの整流性を示すI-V特性。白色光源は黒体(1000度)による光源であり中赤外光も含む。 (c) 狭範囲のI-V特性。0Vで暗電流と光電流の差が確実に測定できた。また、0Aで~10mV程度の解放電圧の差が計測でき電圧による光分別が有望だと示す。 (d) フーリエ変換によるデバイスのスペクトル。同じ光源で近赤外光から中赤外光までの光応答を示す。 (e) デバイスの電極のアレイおよびその拡大した写真。一つの電極は50µm×50µm

【コミュニケーション・国際交流】滞在期間中において、積極的に共同研究先のJavey研究室のみならず、関連分野で活躍する同学同専攻のArias研究室にも研究室ミーティングに参加し多数のフィードバックを分かち合うことで、バークレー校EECSでの人脈を広げることにつとめた。共同研究で出会った先生と友達は図3で示された。

図3 (a)共同研究先のAli Javey先生との写真。 (b) Javey研究室のメンバーの一部との写真。 (c)プロジェクトのメンター東垂水博士との写真。

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