国際交流助成受領者/国際会議参加レポート

令和5年度 国際交流助成受領者による国際共同研究レポート

受領・参加者名
三浦 早耶香
(富山県立大学 大学院工学研究科 生物・医薬品工学専攻)
研究テーマ
バイオマス由来の水溶性レジストの開発
期日
2024年3月11日~30日
受入機関
Universiti Teknologi Malaysia

1. 国際共同研究の目的

従来のレジストは有機溶剤を使用した塗布・現像が一般的ですが、廃液による環境負荷や、基板が限定されること、生物毒性が課題です。これらの問題を解決するために有機溶剤を用いず、アルカリ現像液以外での現像ができる、環境に配慮したレジストの創出が注目されています。

本研究の水溶性レジストは水を使用した塗布・現像が可能なため、環境に優しい製造プロセスであること、有機溶剤に弱いプラスチック基板や金属等にパターンを付与できる利点があります。微細加工・リソグラフィ工程において有毒な有機溶剤やアルカリ現像液を一切使用しないため、現在注目されているバイオメディカル、製薬、光学、電子デバイス向けの環境を配慮したグリーンリソグラフィにおいて、潜在的な健康影響、毒性、環境安全性に関する問題を回避することができます。この利点は、エレクトロニクス分野だけでなく、検査時間の短縮化を目指した細胞培養の3次元培地等のライフサイエンス分野への応用が期待できます。

本留学は、マレーシアで半導体に関する研究者に直接指導していただき、研究をより加速させる目的です。具体的には、本研究室では知見がなく、試したことのないリフトオフプロセスという特性評価を行い、材料の新規特性を見出すことです。

加えて、将来国際的に活躍できる人材になるために、海外での研究を通して、現地学生との積極的な交流を行い、日本との文化や価値観の違いを理解することが目標です。

2. 共同研究先での研究内容

母格の異なる4種類のバイオマス由来水溶性レジストを持参し、材料の特性評価を行いました。実験を行う装置も違うことから、開発した水溶性レジストを用いてパターニングをするための条件設定から行いました。具体的には、材料の固形分濃度の調整、スピンコート、ベーク、露光、現像の全ての段階で実験・評価・観察を繰り返し、最適化した条件を見出しました。その後、本研究室で知見のないリフトオフプロセスを用いた実験を行いました。リフトオフプロセスは、段階として (1)パターニングの作成、(2)金による蒸着、(3)ストリッピングの3段階があります。それぞれの段階で条件設定のディスカッションを行い、最適な条件を模索しました。

今回用いた材料は、膜厚が薄く、リフトオフプロセスが困難であることがわかりました。改善するために膜厚を厚くする際、膜厚均一性に課題があるため、更なる条件設定が必要になります。今回はパターニングまでの条件の最適化ができたため、今後材料の改良を重ね、再度リフトオフプロセスを試します。


(a): サンプル露光中の様子 (b): リフトオフプロセスに用いた蒸着装置 (c)(d): マレーシアで制作したパターンの観察結果

3. 国際共同研究の成果
(コミュニケーション・国際交流・感想)

共同研究先の方々は、私の専攻分野と異なるエレクトロニクス分野の方々でしたが、化学分野の材料の違いに興味を持ってくださり、分野の異なる研究者に英語で説明する難しさを実感しました。また、私自身もエレクトロニクス分野に対する知識が乏しかったため、材料の特性や装置の使用方法等に関して、お互いに質問し合いながら、試行錯誤しました。その結果、初めてマレーシアで材料のパターニングができた際には、一緒になって喜びました。実験以外でも共同研究先の方々と会話することで、マレーシアの文化や日本とは異なる考え方、態度を学ぶことができました。

留学前は、英語でのコミュニケーション能力に非常に大きな不安がありました。しかし、実験を始める前のミーティングや実験中に、わからないことを恐れずに質問することで、自分の知らない専門知識だけでなく、英語での言い方、伝え方についても学ぶことができたと感じます。さらに、共同研究先でのディスカッションは自分の意見を発言しやすい積極的な雰囲気であり、マレーシア人の尊重するオープンマインドを養うことができました。今後も国際交流を通じて世界を広げ、国際的に活躍するための努力を一段と加速させていきます。

最後になりますが、このような貴重な機会を与えてくださった貴財団の支援に心より感謝申し上げます。

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